君に降る華(6)
それはそうだ、初めから無いのだから。
振り返るとやはり薄い膜が木の間だけ張っている。
――では、何故女人の手が消えた?
ヨンは再び女人の元に戻ると、ヨンの行動をぼんやりと雪の上に座り見ているのに気付き急いで立ち上がらせた。
「何座っているんだ、腰が冷えるだろう」
「えぇ?人を倒しておいてよく言うわねー」
呆れた顔で立ち上がり、女人は落とした袋を拾うとヨンを見つめため息を吐いた。
「俺には家は見えない」
「だから、あっちにあるじゃない」
「ない」
「・・・全く何を言って・・・」
「そもそもお前は何処から来た?」
「だから、家から・・・」
「この森は村等は無く、人一人住んだ事が無い。国が管理する土地なのだから、勝手に家等建てたら処罰の対象だ。罰を受けても文句は言えぬぞ」
「・・・罰?さっきから何を」
まるで時代劇みたい。
呆れた顔の女人はヨンの顔を見上げていたが、じろりと険しい眼差しを受けパチリと瞬きをした。
ふと、下に視線を落としヨンが握る剣を見る。
「・・・剣も揃えるとか、本格的ね」
「お前は何の為にここに来た?」
「何の為・・・散歩だけど」
「雪が降った後必ずお前はここに来る。誰かと会う約束をしたのか?」
「・・・だから、散歩だって」
「目的は何だ?」
「目的・・・」
女人はヨンの質問が本当に尋問の様になって来ていると感じていたが、実は女人も少なからず疑問に思っていた事があった。
住宅街を通って町外れの公園に向かっていた筈なのに、気が付くとこの雪原に来ているのだ。
その公園が森林公園という訳でも無く離れた山迄歩いた記憶も無い、そして実家の近くにこんな深い森は無い筈なのだ。
なのに歩くと、広い大草原の様な場所に来てしまっていた。
曇天の中不安になり、ひたすら歩いていると誰かがしゃがみ込み何かをしている、人がいたと安堵しその男性の背中に声を掛けたのだが――。
数日間は雪が降り外に行くのも面倒で家の中にいた。
しかし、あの雪原は一体何処なのか?という気持ちが消えず晴れた日に再び公園を目指しそこに向かって行くと、やはり公園では無く雪原に着いてしまう。
地元なのだから小さい頃から知っている筈なのにやはりここは全く知らない場所だった。
・・・本当に同じ場所に来ているのだろうか?
女人は雪だるまを作る事にし、これを目印に再び来る事にした。
作っているとあの男性が近付いてきて前の自分の様な質問をして来るが、少し会話をすると飽きたのか直ぐに帰ろうとしてしまう。
・・・あぁ、この雪だるまは壊さないで欲しいわ。
男性に頼むとそんな物誰が壊すかと怒って来た。
・・・何怒ってるの?意味がわからない。
全く相変わらず変な格好だと思ったが、趣味でもあんなに毎日着るものだろうか?
「・・・あの場所も変なんだけどね」
再び吹雪が続き寒いからと家に篭っていると、実家に来た理由の嫌な思い出ばかりが蘇り、手に持っていた蜜柑を置いて女人は靴を履き外に出た。
・・・あの雪原はまだ行けるだろうか?
まだ曇っているが、あの雪原に行けるかな、雪だるまは埋まってしまったかな?
あの真っ白な景色にいればこのもやもやも消えるかもしれない。
そんな事を考え少しでも頭の中を切り替えたいと足を進めた。
そうして歩いていると、やはりこの雪原に辿り着いている。
大きく開けた場所はじめじめしてしまう自分を浄化してくれそうで、大きく深呼吸し息を吐き出した。
今度は男性が先に来て雪だるまから雪を払っていたが、格好は相変わらず昔の着物で最早生活で着ている様にも見えてしまう。
だが、この白く静かな雪原と彼の格好が妙にマッチし、時代劇の撮影でもしている様な感覚にさえなっていく。
・・・確かにね、この森も見た事無いんだけど。
・・・本当にここは何処なのだろうか?。
そんな小さな違和感を感じながらも、女人は男性に話し掛けた――。
「・・・・・・あのさ」
「何だ?」
「・・・あそこに並ぶ家は見えないの?道路は?」
「見えない」
「そもそもここ、公園じゃ・・・ないわよね?」
「“こうえん”とは何だ?ここは王の土地だ」
・・・・・・
・・・・・
「・・・王?王様?」
「ああ」
・・・・・
・・・
「何処の王様よ?」
「高麗」
「・・・高麗?・・・・・“高麗”?!」
「ここは、高麗だ」
――・・・・高麗?
・・・この時代にそんな地名あったかしら?
いや、私が小さい頃からいた町なのだからそんな地名は聞いた事が無いし隣り町でさえ無い筈だわ。
晴れない違和感の答えを聞いた筈なのに、頭の中が全く回らない。
少し間の後、女人は周りを見渡し広い雪原とその先の山々を眺めていたが――。
「・・・・・え、何処?何であんなに山が多いの?」
バサリ。
女人は拾ったばかりの袋を再び雪の上に落としたのだった――。
(7)に続く
△△△△△△△
・・・女人も違和感に気付いた様です(^^)アラ☆
変な通路が出来てしまった様ですね~。
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