君に降る華(2)
二日後、ヨンは再びあの雪原に向かっていた。
あの奇妙な女人が気になった訳では無い。
今日も誰もいない場所に行きたかった。
二日の間にまた降り出した雪で、以前自分が付けた足跡はすっかり消えてしまっている。それでも、足を雪の中に沈み込ませながらあの雪原に辿り着いた。
この間怪我をした手では無く反対に視線を落とすと、簡単に巻いただけの薄い布が取れそうになっており、ヨンはため息を吐きながら直し始めた。
作らなくても良い傷ばかり増えている様な気がする。
あんな酔っ払い共の話等無視しておけば良かっただろうに、自分が我慢ならなかったのは何故だろう?
・・・あぁ、違う。言い返す言葉が出て来なかったからだ。
わかっていた筈だ。
なのに、沸き起こった怒りの衝動は収まらず、まだ嘲笑し話をしていた男共の机を蹴り飛ばし胸倉を掴み上げ地面に投げ飛ばしたのだった。
少しの後、店の近くを歩いていた隊士達に抑えられヨンは漸く大人しくなったのだが、店内の惨状に抑えた隊士達も唖然とした眼差しをヨンに向けていた。
「・・・フン」
店内の奇異な視線と驚愕する隊士達の眼差しを一瞥し、ヨンは無表情で店から出て行った。
兵舎の自室に入った時に自分の手が切れて血が出ている事に気付いたが、まだ収まらない苛立ちに適当に処置をしてそのまま寝台に寝転ぶと目を閉じ更に暗闇に入ろうとした。
暖も灯りも付けていない寒い部屋は、また降り始めた雪の何かを擦れた音と、偶に吹く風音で何時も開けない窓を揺らしていたのだった。
誰とも話したくないと朝餉を食し、直ぐに兵舎を出た。
後ろからチュンソクの呼ぶ声が聞こえたが、聞こえないふりをして――。
だが。
「・・・・・」
ヨンは雪原に着きはぁーと大きなため息を吐いた。
まだあの女人がいる・・・。
今日はあの白い外套では無く薄い茶色の外套を着てこの間の自分の様に雪原の中に座り込んでいた。
後ろ姿だが頭を下げゴソゴソと手を動かしている姿に、自分と同じに怪我でもしたのだろうか?とふと思い近付いた。
「・・・怪我でもしたのか?」
ヨンの言葉に肩越しに顔を向けた女人はヨンに気付き、あら、と声を出した。
「怪我大丈夫だった?」
また、話を聞かぬ・・・。
やはりこの女人は少し足りないのかと、眉を顰め座り込んだままの女人を見下ろした。
「・・・何をしている?」
服が違うという事は、確かに女人が言う様に近くに家があるのだろう、この間よりは厚みのある外套と手袋をした姿だがずっと座っていては身体が冷えてしまわないか?
女人は少し離れた場所を指差し、
「雪だるま作っているんだけど」
「雪、だるま?」
何だそれは?
女人は少し屈むと雪玉をコロコロと回し始めた。
それは徐々に地面の雪を付け大きくなっていき、離れた場所にあった同じ雪玉の傍まで行くと雪玉の上に重ねたのだった。
ヨンはその女人の動きを黙って見ていたが、首を少し傾げてしまう。
「だから、それは何だ?」
「は?雪だるまって言ったでしょう」
聞いてなかったの、何なの。とぶつぶつ言う女人は何処から見つけて来たのか、石と木の枝をそれに付け足す。
・・・・・
・・・
わからない。
何だ、これは一体・・・。
そもそも雪だるま自体何なのだ?
しかしよく見ると顔らしきものもある。
「・・・仏像か?」
「だから雪だるまって言っているでしょう!スノーマンよ!」
「すの・・・」
――・・・駄目だ。
やはりこの女人の言葉は理解出来ない。
何だかここにいるのもうんざりだと思い始めたヨンは、ガリガリと項を掻きあぁ、と声を出した。
「・・・そうか」
曖昧な返事をし、ヨンは女人に背中を向け歩き出す。
「あら、帰るの?」
「・・・・・」
話したくもない。
ザクザクと固まった雪を踏む音だけを聞き、ヨンは歩いたが。
「雪だるま壊さないでねー!」
背中から女人が此方に向けて声を上げて来る。
「そんな物、誰も壊さん!」
ヨンは思わず振り返り声を荒らげ女人に言うと、女人は
あっそ!
と拗ねた声を返して来た――。
(3)に続く
△△△△△△△
女性は雪だるまを作っていたらしい。笑
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