「髪、伸びたね」
その言葉と一緒に、ツンと髪が引っ張られた。
痛くはないけれど、むず痒いので抗議をしようと隣に座っている人を見る。
声には出さず、目だけで訴えてみるもののそれすら楽しいのかにっこりと笑って返された。
「やめてください」
「痛くはしてないと思うけど?」
痛くない程度に髪を引っ張っていた指は、今度はクルクルと髪を巻きつけて遊んでいる。
確かに痛くはない。痛くはないが、別の意味で痛い。
さっきからビシバシと突き刺さる視線の痛さをどうしてくれよう。
睨んでも声を出して抗議をしても、そんなものはどこ吹く風の如く。
寧ろ反応が返ってくることが楽しいかのように、極上の、はっきりいって心臓に悪い笑顔を浮べていた。
「………わざとですか?」
「何が?」
「いくら面倒だからって後輩を盾にするのはどうかと思います」
「そんなつもりはないんだけど。俺が最上さんと一緒に居たいだけじゃ駄目なの?」
少し困った顔で、あまつさえ萎れた耳と尻尾とか見えてない。見えてないったらっ!
無意識だろうと意識していようと、いや意識的にされてると大変困りますが。敦賀さんの不用意な発言で、私に突き刺さる視線がさらに増しました。どうしてくれるんですかっ!!
しかも、ただ髪に触れているだけならまだしも、何故に肩に腕を回して反対側の髪に触れるとか意味がわかりません。
「ごめんね。俺、腕が長いから」
「そうやって人の心を読むのやめてもらえませんか…」
「判りやすく顔に出る最上さんが悪いんだよ」
キュラリ、と効果音がつく笑顔を向けられて、背筋が凍っても叫びだして逃げ出したい衝動に駆られても未だに弄られてる髪がそれを許すはずもなく。
ほぅっとため息をつく周りにいる女性陣に喜んでこの場所を明け渡したい。
誰でもいいから私をここから助け出してください。
「伸ばしてるの?」
長い髪の最上さんも可愛いだろうね。
とりあえず、後半に聞こえた台詞は聞かなかったことにして私は開いていた台本に視線を落とした。
「今のドラマが終わらないと切るに切れません」
「そうだけど、この際伸ばしてみればいいのに」
「長い髪は手入れが大変なんです。まあ、色々とヘアアレンジは出来るのはいいんですけど」
「…ツインテールとか可愛いんじゃないかな?」
「どこの小学生ですか」
ツインテールとか、小学生時代にしかしたことのない髪形に思わず突っ込みをいれてしまう。
今時、女子高校生がツインテールとかしているなんて(いないこともないだろうけど少数派に属しているはず)
「でも、マリアちゃんみたいな服でツインテールとかだったら可愛くない? 最上さんそういうの好きだよね」
確かに。確かにメルヘン思考な私はそういうのが好きですが、見るのと着るのとでは違います!
って聞いてるんですか?! そこで何を嬉しそうに頷いてるんですか!!
「今度テンさんに相談してみるよ」
「相談って何の相談ですか! ちょっと敦賀さん―――」
嫌な予感しかしない台詞に抗議の声を上げようとした瞬間、タイミングよく監督に敦賀さんが呼ばれてしまう。
「じゃ、またあとでね」
名残惜しそうに髪から指が離れる時に、スッと首筋を撫でられて思わず肩を竦めてしまう。
恥ずかしさを隠すために立ち上がった敦賀さんを睨もうにも、既にこちらに背中を向けて歩いていく姿。
変に熱を持った首筋を掌で覆い、きゅっと唇を噛み締めた。
きっと、顔が赤い。
(もう、やだ…)
最近の敦賀さんはやたらと触れてくる。自意識過剰だと思われても仕方がないくらいに。
その度に、心臓が変な音を立てて、苦しくなってしまう。
キミに触れる、その理由
そんな様子を遠くから、敦賀さんがうっすらと口許に笑みを浮べて見ていたなんて私は知らなかった。