キョーコとの出会いは小学3年生の頃。
クラス替えで一緒になったのが切欠だった。
容姿は中の上。頭はクラスで上位。運動神経も悪くない。
謂わば『普通』の女の子。
でも、若干クラスの中で浮いていた。
クラスメイトと会話はしている。
しかし、特定のグループに属している様子が見られない。
私自身、集団で固まるのが嫌いなので興味を持って話しかけてみた。
あの時の笑顔は、今でも忘れられない。
その日からよく話すようになり、一緒に居ることが多くなった。
今まで親しい友人はいなかったので新鮮だった。
久遠くんとキョーコちゃんの日常《親友編》
正門を通り抜けると、時計塔に視線をやって時間を確認する。
(いつも通り。そろそろかな…)
下駄箱へと向かいながら考えるのは、ざわめきとともに登校してくるキョーコのことだった。
あの出会いから今まで、時には口論したり色々あったが、キョーコ曰く『親友』と呼ぶ間柄になっている。
無論恥ずかしいので私は『腐れ縁』と言い張ってはいるけれど。
出会いからしばらくして、キョーコの思考回路に疑問を持ち始めた。
別段頭のネジがおかしいとかそういうことではなく、ある種の話になると思考停止になるというか頭の上に大きなハテナマークを掲げてしまう。
頭はいいはずなのに、どうしてそんな思考にいたるのか分からなかったが、ある人物の出会いで理解した。
キョーコの今では珍しい純粋培養な思考は『魔王』のせいであると。
家の方向が真逆なため、一緒に登下校などしたことがなかった。
あの日は貸していた本をキョーコの家までとりに行くついでに、宿題をしようという話になり、嬉しいのか浮き足立つキョーコに手を引かれて正門のところまで来たときにそれはいた。
キョーコを待っていたのは、メルヘン思考のキョーコの言葉を借りれば『王子様』そのものだ。
太陽の光でキラキラと輝く金色の髪に、何もかも見透かされそうな碧色の瞳。
キョーコの名前を呼ぶ声音はどこまでも優しくて、頬に朱が混じったのは思い出したくも無い黒歴史よ!
嬉々として私を目の前の『王子様』に紹介して、キョーコから『王子様』の名前を教えられた。
クオン・ヒズリ。
上級生のお姉様方がキャーキャーと煩い男子の名前と一緒だった。
1つとはいえ、相手は上級生だと思い、失礼の無いように挨拶したが一瞬だけ見えた鋭い眼に背筋が寒くなった。
それはほんの一瞬で、私の勘違いじゃないだろうかと思った数日後、ヒズリ先輩と空き教室で対面することになる。
あれは今思い出しただけでも身体が震える。
笑顔なのに眼が笑ってなくて背後にどす黒い何かがあった。
とりあえず、私がキョーコに対して害がないと判断すると『魔王』から『王子様』へとモードチェンジし「キョーコを宜しくね」とだけ残して去っていった。
(魔王だけは敵に回してはいけないわ…)
朝から昔のことを思い出して気分が下降していると、女子生徒の黄色い悲鳴がそこかしこで聞こえ始める。
この悲鳴は『魔王』が登校してきた証拠であり、女子生徒の会話から察するにキョーコが隣にいるのは明白。
上履きに履き替えると、そのまま教室へは向かわずに、キョーコが到着するのを人の邪魔にならない場所で待つことにした。
「モー子さん、おはようっ!」
「おはよう。相変わらずね」
「ははは…」
相変わらずが何を指しているのか分かっているキョーコは引きつった笑いを浮べる。
「おはよう琴南さん」
「おはようございます。ほら、行くわよキョーコ」
朝から幸せですオーラを隠しもせず挨拶をしてくる『魔王』に負けじと笑顔を返事をする。
そしてキョーコを手を取ると、見せびらかすように教室へと向かった。
本当なら注目の的になるヒズリ先輩の近くにいたくないけれど、キョーコを1人で教室に向かわせるのは心配してしまう。
今はまだ大丈夫に見えるけれど、いつヒズリ先輩の信者が行動に出るか分からないからだ。
いい加減煩わしいので、さっさと対応してほしい。
(社先輩に言ってせかしてみよう)
それなりに情報も集まってるだろうし、こっちだって提供しているんだから。
じゃなと、いつまで経ってもキョーコと平和な学校生活が送れやしないわっ!