あけおめです←遅いよ
年末に見切り発車でお捧げモノしたお話の続きです。まだ終わりませぬ・・・・
先だってお捧げ先で晒しモノにされておりますが、今回は自宅公開を先行した作品なので我が家でも公開です。
ちょいと誤字の修正とか言い回しの修正もしてますが、きにしないー。
続きはぽちぽち書いていこうと思います。
【(仮)『肉食キョーコちゃんのヘタ蓮君添え』レシピができるまで 3】
ああ、頭が痛い
のどが渇いた
みず・・・みず・・・・・
・・・・・・・!?
ぐらぐらと揺れているだろう視界は予測していたが、それ以上にのどの渇きが辛く目を開けた女は見慣れぬ天上に疑問符を飛ばした。
視線を動かすと船酔いのようにぐらぐらと揺れて脳がシェイクされたかのようにひどく傷む。
あれ?布団がピンクじゃない・・・
ベッドに備え付けてある毛布は肌触りの良さがお気に入りのピンク色だったはずなのに、目の前にある布は白だ。ノロノロと起き上がると重力に従い布団がずり落ち、外気に触れた肌がその温度差にそそけた。
「さむっ!」
自分の思考と同様の声なのに自分の声じゃない。ぐいっと何かに手を引っ張られたせいでバランスを崩し上半身がポスンと柔らかく温かい布団に接触した。
「~~~~っ!」
スプリングのきいたベッドの反動はアルコール代謝物で弱り切った脳がその数倍の揺れと認識し、しばらく動けなかった。
「・・・なんで」
「ん?」
「・・・あたま痛いのぉ・・・」
ようやく脳内が静まりはじめ、思わず誰に当てるでもなく弱音を吐いた。
「なんでって、そりゃぁ・・・」
「・・・?」
相手を持たない独り言だったはずなのに、なぜだか返ってくる声がある。
「すんごい飲んでたからね。昨日の事覚えてる?」
「???」
声が聞こえてくる方に痛みを押して顔を向けると、肌色が飛び込んできた。
「さて、質問です。このベタなシチュエーションから誰しもが思い浮かべる出来事ってなーんだ?」
未だに酔いを引きずった瞳がきょとんとした色を浮かべているのを見て取った相手はにやりと笑った。
「君、さいこーに可愛かったよ?」
「どう思う?」
「どう思うって、何が」
「だからこういうシチュエーションって」
「貴島君は経験あるんじゃないの?」
「えー、さすがに酔いに任せてはたと気がついたらベッドの中で裸の女性と二人はさすがに無いよ」
「そっちじゃないよ」
カメラチェックを終えてバスローブに身を包んで待機所に戻ってきた貴島は、待機中の蓮に話しかけてきた。撮影シーンはOKなようで、次のカットのためのセッティングにスタッフがこまごまと動いている。
「ヒドイよね。きっとプライベートでもこういうの経験アリって敦賀君も思ってるんだー」
「そういうイメージを作ってるのは貴島君だろう?」
「女の子との交流は大好きだけ、ど酔った女性を食い物にするなんて紳士じゃないマネなんてしないもん」
待機場所に備え付けられたお菓子を摘まみながら貴島は軽く口をとがらせた。
製作側の意図はドラマのシーンを通して貴島のプライベートを連想させて話題性をアップさせることにあるから身から出た錆だよな、とその会話をそれとなしに耳に入れていた社は思った。
「でもさー。俺、酒で記憶飛ぶタイプじゃないから分かんないんだよね。そもそもそこまで酔ってたら眠たくってそんなことする余力ないと思うんだけど。現実的にあるのかって思わない?」
「現実にあるなしを言い出したら、ドラマ自体成り立たないだろう?脚本の中の世界を現実感を連想させて演じるのが俳優の仕事じゃないか」
「ちぇー、そんな当たり前の感想が聞きたいんじゃないよ。敦賀君だって酒強いだろ。こんなシーンに出くわすことってあり得ると思う?」
「俺も記憶はなくしたことはないけど、経験あるって人がいるんだからあるんじゃないのかな」
会話の間もパクパクとお菓子を摘まみ、差し入れで広げられていたどら焼きの二つ目を頬張りだした貴島に蓮は顔を顰めた。
あまりに食べる貴島を見て胸やけを起こしたに違いない。
「きっと気が動転するんだろうなー。非現実的だよね。そういう意味じゃ一度くらい体験してみたいと思わない?」
「酔って記憶なくして?」
「そそ、気がついたら美女とベッドの中」
「スキャンダルだよ」
「そりゃ、バレなきゃいいだけじゃん」
「御免こうむるよ。情けないし」
「やっぱ敦賀君にはそういう男のプライドはあるかー」
「普通そうだと思うけど」
・・・・・こ・れ・だ!
蓮が泡を食う形でキョーコちゃんとくっつく(くっつける)のが「蓮をぎゃふんと言わせる」作戦だったのだが、具体的にはどういうのがいいか少し思い悩んでいた。
貴島秀人とアイドルのダブル主演の今期のドラマはラブコメディ。蓮はその共演者だ。
酔った勢いで一夜を共にした男女だったが、女の方は全く記憶なし。
記憶にない体の関係からスタートし面白おかしくテンポよく進む展開は、重めのドラマが多いこのクールではかなり視聴率的には有利だ。キャスティングにも力が入っている。
どちらかというとシリアスや硬派な作品が多い蓮だが、主演俳優の希望でオファーが舞い込んだ。
あまり演じることの少ないタイプの作品の経験は蓮にとっても利点が多い。友情出演的な立場なので期間中出ずっぱりでもないし、ちょうど大きな仕事が舞い込んできているのでボリュームとしてもちょうどいい。貴島が絡んでくるのはまあ蓮が勝手に我慢して捌けばいいだけだし、そもそも蓮が仕事内容で仕事を選ぶタイプじゃないから快くオファーを受けた。
「お、このどら焼き抹茶だ!しかも抹茶小倉白玉。ん~、この白玉の食感!いいね!」
貴島は3つ目のどら焼きを一口食べて嬉しそうに自分のスマフォを取り出した。差し入れの箱に書かれている店名とどら焼きを撮影するカシャリいう電子音が聞こえてくる。
貴島のスイーツ好きは本物で、気に入った甘味があれば後で自ら買いにいく。そういえば最近雑誌でスイーツ関連の特集記事に出てたな。
「王道のつぶあんの美味しさはもちろん、変わり種の種類も多いし全部美味しいんです。あんまり知名度は高くない隠れた名店ってやつですよ」
差し入れを持ってきたのは最近グルメ志向でバラエティもこなすようになった共演女優の杉山真理。貴島が甘味好きと知っての持参らしい。貴島が写メを撮っていることから気に入ってもらえたと鼻高々の様子だ。
「貴島さん、私オフィシャルブログもやってるんですけど、今日のネタにこれ貰っちゃっていいですか?」
「ひひほ、ひひほー」
もぐもぐと口に甘味を詰め込んだまま貴島は気安くそれに応え、杉山はマネージャーにスマフォでの撮影をお願いしていた。
「敦賀くーん、君もサービスだと思って一緒に映ってあげてよ」
「え?」
「もー、イイ男がケチケチしない」
ひょいとどら焼きを投げてよこされた蓮は、食べ物のを床に着地させるわけにはいかず受け取らざるを得ない。思わずキャッチしてしまったはいいけど、どら焼きを見て少々困っているようだ。
ああ、手に取ったからにはこれを食べないで箱に戻すことはできないもんなー。
「社君ー。もしかして敦賀君ってこういうのNG?」
蓮の表情を別方向に解釈した貴島は、律義にも壁際でひかえていた俺に確認をよこして来た。
食えないやつだけどなんだかんだ言ってちゃんとまわりは見てるんだよな。
「きゃー!やった~!」
「ほら、早く早く!」
今の世の中芸能人のプライベートを垣間見れる気分になれるオフィシャルブログを邪険にもできない。更にドラマの撮影現場となれば無料のドラマの番宣にもなる。このくらいの露出なら許容範囲だ。
頭上で手を丸の形にしてOKの意を伝えると、蓮は貴島のペースに巻き込まれマネージャーの構えるスマフォの前に駆り出されていた。これも仕事と割り切ったのか、手にしたどら焼きににっこりと紳士スマイルを添えている。
杉山はこういった露出が少ない蓮がおまけでついてきた写真を思わぬ形でゲットできたのが余程嬉しかったのか、2人にお礼を言うと早速投稿しようとスマフォを操作しはじめた。
「・・・貴島君もブログとかやってるの?」
「ひんは?」
杉山と同じようにスマフォを弄り始めた貴島に蓮がそんな質問を投げかけている。どら焼きにかぶり付く絵で写真を撮ったせいで、またしても口内に食べ物を詰め込んだまま貴島が否と答えている。
「よしっ送信・・・と」
「え、メール?」
忙しく指先を画面に滑らせていた貴島は作業が終わったらしく、スタッフが入れてくれた緑茶をすすり始めていた。
「そ。可愛いスイーツ仲間の後輩に情報提供~。この前も抹茶系の情報流したら喜んでいたからさ」
「・・・・・・・・・」
貴島は意味ありげな笑みを浮かべて蓮を見やっているが、蓮はちょうど俺に背中を向けているから表情は見えない。
でも、この流れは覚えがある。
暖かいはずのスタジオ内にどことなく冷気を感じるし、俺の胃袋がきゅう・・・という音を発している気がする。
“You've Got Mail”
「お、はやっ!たまたまケータイ操作してたとこかな。珍しい~」
ううっ、寒い!
蓮の肩が僅かに揺れたのを目にしてしまい更に低下した気がする室温に背筋が震えた。
貴島のやつめ、『珍しい』と評するとこから、こういった行為を複数回重ねているって事だ。
獰猛な猛獣が目の前で睨んでいるのに、貴島は返信のメールに目を通しているらしく自分のスマフォを覗き込んでいて蓮の表情には気がついていないらしい。
まったく呑気な男だ。
そんな呑気な男は、何か思うことがあったらしくスマフォを見て眉を顰めたあと、チロリ、と蓮を見た。
「敦賀君、それ、食べないの?美味しいよ」
貴島の表情に、蓮の冷気が若干緩んだ。
「あ、・・・え?いや・・・」
貴島の真意を読み取れないばかりか先ほど躊躇していた事柄を指摘され、蓮の返答は歯切れが悪い。
お腹が空いてないとは言えても、今の状況で満腹だから食えないとは言えないよな。一緒にスタジオに入ってから5時間、お前が飲み物以外摂取してないのは貴島も知っている。
しかもどら焼きは個装ではなく、一度直接手にしてしまっている生ものだ。
「・・・っていうか食べるよね」
「いや、そりゃ後でいただくけど」
「今じゃないの?」
「・・・・・・・」
「食べるよね?」
「貴島君?いったい・・・」
いつにない貴島の押しに蓮の冷気が若干弱まり困惑が見て取れる。貴島の視線は蓮が手にしたどら焼きと蓮の顔を行ったり来たりしている。そしてまたスマフォ画面に移り何とも言えない表情を浮かべた。
「食べてくれないと、俺が怒られる・・・気がする」
「・・・・・は?」
貴島はくるりと自分のスマフォを蓮の方に向けた。さすがの俺も好奇心に勝てずに思わず覗き込んでしまった。
『From:京子ちゃん
Re:新情報~♪
メールありがとうございます。ええっ、新情報!?貴島さんも知らなかったそんな隠れた名店があるなんて!またまた教えていただきありがとうございます♡
大好きな抹茶と小豆コラボに飽きたらずそこに白玉なんて~!しかもそれがどら焼きに挟まってるなんて、想像しただけで渋いお茶を頂きたくなります。さすがグルメと評判の杉山さん紹介のお店ですね。知られざる名店の予感です!食べてみたーい!
撮影、敦賀さんもご一緒なんですか。楽しそうでいい雰囲気なのが写真から伝わってきます♪
ちなみに敦賀さん。手に持ってるたい焼き、ちゃんと食べましたよね?』
・・・・って、キョーコちゃん?
もしかして、もしかしなくても貴島とはスイーツネタでそこそこメールのやり取りがあるの?
前見た初めてのメールより文章少しくだけてるし、前よりデコメや絵文字増えてるけど!?
ちらりと蓮を見やると、やっぱり顔は笑っておらずそこはかとなく何かが漏れ出してる気がするんですけどー!!??
「なんかさー、最後の『食べましたよね?』に妙な圧力を感じるの俺だけ?敦賀君何で京子ちゃんにこんなこと言われるの?」
「・・・・・・・」
「それは、キョーコちゃんは事務所の後輩で、それで・・・っ」
「そういえば、ダークムーンの時も敦賀君京子ちゃんに食事の事で怒られてたよね」
「・・・・・・・」この後、「はいはい文句言わない証拠写真!」と促され手にしたどら焼きにしぶしぶかぶり付く蓮と4つ目のどら焼きを口に運ぶ貴島のツーショットを撮影するハメになった。