特別な日に特別な楽しみを | 妄想最終処分場

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やっぱり遅刻したキョコ誕…。というか!もともと何のネタも浮かばずにスルーする気満々だったのに、24日の23時ころケーキ食いながら小ネタが降りてくるってどうよ!?

しかも書いてみたものの、あまりまとまりがないという…。そんでありがち、かも。いい加減にしろよ自分orz


そんなわけでキョコさん!誕生日おめでとうございました!

そしてたくさんの作家様方!キョコ誕に合わせて沢山のお話を拝読・イラストを拝見できて幸せでしたーラブラブありがとうございます!!

それではみなさん良いお年を~←今年中にもうお話をアップする余力なしwそして続き妄想は止まったまま…(滝汗)
恋人同士な蓮キョ設定の小話↓

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆



特別な日に特別な楽しみを



グラスに入った細かな泡を立て薄い黄金色の液体を飲み干したキョーコは、すかさずその口に手をかざして蓋をする。

薄口のグラスがキョーコの手のひらに触れて、ふわわっと綺麗な音を響かせた。


「もうっ、ダメです!」

「どうして?キョーコ好きでしょ?」


ボトルを片手に、どうしてダメなのかと食い下がる蓮は、空けたシャンパンがもったいないんじゃない?とキョーコの姿勢を崩しにかかる。


「そんなこと言って敦賀さん、私に注いでばかりで自分はそんなに飲んでないじゃないですか!いつもなら飲みすぎるのを怒るくせに!」

「それは外の話。今はうちだし、俺しかいないし、明日はオフだし。美味しくって飲みすぎたって何も困らないよ?」


お酒を楽しみだして日の浅いキョーコが好むアルコールは、蓮にとってはだいぶ甘い。そんなに強くはないが、美味しそうに楽しそうにお酒を楽しむキョーコと一緒に飲めるようになったのは蓮にとって嬉しい事。そしてアルコールに潤びたキョーコを美味しく頂く楽しみはやめられない。

今日だって特別な日には特別なモノをとは思うけれど、庶民的感覚の愛しの恋人にそれを入手するまでの対価を見抜かれると、アルコールそのものを楽しむ以前にお小言が降ってきて恐縮と先入観からちゃんと味わってもらえないというのは過去の度重なる学習で習得済み。

本日、キョーコを楽しませているのは十分高い!と文句を言われる階下のスーパーマーケットで扱っている大衆的金額の優良品。飲みなれていていつ飲んでも美味しいと感動してくれるいささか安い買い物だが、小言を言われたあげく美味しさが分からないと言われるよりはふわふわと可愛らしく笑うキョーコとの時間を少しでも長く確保したい。

そんなキョーコの性格を知り尽くした蓮のチョイスに、キョーコの文句をつける場所は少ないはずなのだか、今日はなんでか拒否をされる。


空いたグラスに追加を注ごうとする蓮と、それを拒否するキョーコ。

コレ、美味しくない?と首を傾げる蓮はいつぞやに見たことある大型犬の癖に耳を垂れたワンコ状態。でもそんな仔犬は実は狡賢い仔ライオンでもある事キョーコは知っている。

分かっていても凶悪に可愛らしく母性本能を擽る仔犬の皮に、『う……』とキョーコは怯みそうになるが、今日の一番をこの後に控え引くに引けないのだ。


「食事はいったん終わりにして、お風呂に入りたいんです」

「じゃあコレを飲みきって一緒に入ろう?」

「…一緒に入ったらその後が無いじゃないですか」

「あとって?」


ベッドの中で甘いデザートを楽しむだけだけど?と、どストレートに表現してはさすがにそのデザートに逃げられてしまう。曖昧ににっこりと蓮が微笑んで見せれば、キョーコは胡散臭そうな視線を投げてよこした。そんな視線でさえ、アルコールに潤んだ瞳で突き刺されれば蓮の頬はついつい緩んでしまう。


世の恋人たちが甘々しく過ごす日だというのに、なんとつれない事か。

今はクリスマスイブ。

時計を見上げればもう1時間半もすれば日付が変わってクリスマス。

ただでさえ恋人との語らいに酔ってもいいはずの日なのに、世間一般の恋人たちと違うのはクリスマス=恋人の誕生日という一大イベントでもあるということ。


「あとは…デザートです」

「俺も同じことを考えてたよ?」

「嘘ばっかり」


そういってキョーコは蓮の手をよけて食器をシンクに置くと、素早くバスルームへ消えてしまった。

逃げられてしまったとはいえ、ここは自宅でキョーコの行先はバスルームとはっきりしている。

夜はまだ長いし、毎年のごとくおめでとうと、一番乗りでお祝いをするのはもう1時間ほど先の事。


「あま…」


逃げられてしまったデザートを深追いせず、蓮はボトルに残った甘めのシャンパンを自分のグラスに注いで口に含む。べた付く甘さではないのだけれど、どうしても蓮の舌には甘味が強く残る。

甘いのはキョーコだけで十分だと一人ごちて、甘くなかった恋人の見えない背中を追うように視線を廊下につながる扉に滑らせた。


酔うほどのアルコールは摂っていないのだが、クリスマスイブを恋人と過ごせる喜びとその時間を確保するために削った睡眠時間と詰め込んだスケジュールから少しぼんやりしていたのかもしれない。

シャンパングラスだけが取り残されたテーブルの前で、蓮は甘いとぼやきつつも緩やかに一筋の泡を立ち上らせるシャンパンを舐める。

蓮にとってのデザートはキョーコ自身だが、キョーコが指したデザートは本当にデザートなのだろう。

小食の蓮でもまだキョーコとデザートを楽しむ余裕がある。それは蓮の胃袋を本人以上に知り尽くしているキョーコが本日のディナーを調整しての事だ。

そういえば、以前とっても美味しいケーキを作るお店と巡り合ったのだと嬉しそうに話していたのを思い出す。もしかして例のケーキ屋のケーキを買ってきてあるのだろうか?と思っていると、カタリとリビングのドアが開き、湯を使ってきたキョーコが戻ってきた。


「おかえり」


蓮が片手を差し伸べ、おいでと手招きするようにその手を広げる。

キョーコは一瞬警戒の色を見せたが、来てくれないの?とでも言うように小首をかしげた蓮に負けてちょこんと蓮の隣に座った。


「敦賀さんも、お風呂どうぞ?その間にデザート準備してますから」


腰を絡め取った手を牽制するキョーコに構わず、蓮はキョーコを引き寄せる。風呂上りの温かなキョーコの肌からは控えめで清潔な石鹸の香がふわりと香る。甘いアルコールは湯でさっぱり洗い流してきたようだ。

バスルームに常駐してあるキョーコの好きなローズの香ではない控えめなそれ。抱き寄せたキョーコの項に鼻先をうずめたまま蓮は思わず浮き上がった疑問をそのまま口にした。


「ソープがいつもと違う。どうしたの?」


すんすんとまるで犬のようにキョーコの肌に鼻をすり寄せる蓮の呼吸が項を撫で、キョーコは擽ったそうに首をすくめた。


「だって、しっかり味わいたいんですもん…」

「いいね、それ。キョーコの香りを堪能するのもいい」


がぶりとキョーコの首筋を甘噛みしその肌をぺろりとひと舐めすると、ぞわりと震えが唇を通して伝わってきて蓮はクスクスと笑った。


「もうっ、ケーキの話です!ずっと食べるのを夢見てたんですから!酔っぱらった状態じゃなくてちゃんと五感をフルに使用して見た目も味も香りもじっくり味わいたいんですっ」


べりっと自分から引きはがすように蓮を押し退けたキョーコは、そのままキッチンへと逃げ込んだ。


「お茶を入れて一服してから、日付が変わるころにケーキを食べましょう?まだちょっと時間があるからお風呂に入ってきてください」


キッチンからお茶を用意するために働くキョーコが奏でる生活音が響いてくる。

これ以上ご機嫌を損ねてはと、蓮はのそりと立ち上がりキョーコの指示に従いバスルームへ向かった。





「おかえりなさい」


シャワーで汗を流しただけの蓮は、ほどなくリビングへと舞い戻った。

バスルームに使えとばかりに置いてあった無香料のソープを使用した蓮は、いつもの風呂上がりと何かが違うようで、ほんの少し、なんとなく居心地が悪い。

正しくは居心地の悪さでなく、ここまで自分のおねだりを無下にあしらわせキョーコが居住まいを正して味わおうとする『デザート』に対して抱いたほんの少しの面白くなさ。

そんなモヤモヤした感情を心の底に抱えつつも、温かな紅茶の香の漂うリビングでキョーコがふわりとほほ笑んで出迎えてくれたことで嬉しくなる自分に苦笑する。


キョーコは湯上りの蓮にミネラルウォーターと紅茶とどちらがいいか聞きながら、ちらちらと壁にかかった時計を気にしていた。


時刻はもうすぐ0時を指す。


キョーコはいそいそと冷蔵庫から小ぶりな白い箱を取り出し、リビングのテーブルの上に運ぶ。

既に皿とフォークがスタンバイされたテーブルに、蓮は小さめの足つきグラスを棚から取り出しセッティングする。キョーコが喜びそうだと選んだ薄桃色のシャンパンはハーフボトルで、デザートを味わいつつの1杯ならいいだろうと、文句を言われた時のことを考えつつそろそろと準備をする蓮だったが、キョーコは箱の中のケーキに意識が集中しているようで全く気付く様子が無い。


そんなにケーキに夢中ですか、と先ほど収まりかけたモヤモヤがまた蓮の心中で蠢くが、早くと手招きするキョーコに急かされて蓮もキョーコの隣に腰を下ろした。


「開けますよ?」


まるで宝石箱を開くかのように、うきうきどきどきした表情でキョーコが白い箱をゆっくりと開いた。

持ちあがった蓋の中から現れたのは、直径15㎝弱の小さな小さなホールケーキ。

滑らかな生クリームの上に真っ赤な苺が鎮座した、シンプルで王道のショートケーキだった。


「随分と小さいね」


定番のホールケーキをミニチュアにしたような小ささなのに、しっかりと『ホール』であることを主張する佇まい。スポンジに挟まれているであろう苺は側面の真っ白な生クリームに覆われて今はうかがい知ることができない。


「可愛いでしょう?こんなに小さくてもちゃんとホールケーキなんですよ?」


それにこれ以上大きかったら二人で食べるにはちょっと辛いですというキョーコに、そうだねと相槌を打つが、蓮の目にはただ小さい普通のケーキにしか見えない。


「これが、特別なの?」


思わず零れてしまった疑問。

いじけたような質問に蓮はしまったと思ったが、幸いなことにキョーコはその裏に潜む嫉妬心には気づかずただ本当に素朴な疑問だととらえたようだった。


「そうなんです!以前仕事で知り合ったケーキ屋さんのご主人に頼んで作ってもらったんです」


ケーキの類も職人顔負けの見た目と味のモノを自作できるキョーコがわざわざ購入してきたケーキ。

それは言わずもがなキョーコの琴線に触れる至上の味わいなのだろうと理解できるが、それでも商売屋の商品であることには変わりない。


「以前いただいた時にとっても美味しくって。でも小さいお店だし、気難しいご主人で個別の注文は基本受けてくれないんです。どうしても、ここのホールケーキが食べてみたくって…」

「カットケーキじゃダメなの?」

「だって夢じゃないですか、ホール丸ごとって…」


丸ごとだろうが切り分けてあろうがケーキには変わりないと思うのだが、蓮には理解できないこだわりと憧れをキョーコは持っているようだった。ホール丸ごとと言うとどうしてもブラックホール胃袋を持つ食に関しては遺伝しなくてよかったと思うハリウッド俳優が脳裏をチラつき、蓮は軽く頭を振ってその姿を頭から追い出した。


頑固な職人気質な主人は、どことなくだるまやの大将に通じる空気を持つ人だった。お店のケーキに惚れこんだキョーコが食い下がり、仕事を通じてキョーコの人柄を気に入った店主はある条件ならば注文を受けてやってもいいと最終的にはキョーコにほだされていた。


「しかもお店で取り扱ってない、特注の小さいサイズですし」

「そんなにこだわらなくても…。通常サイズなら受けてくれたんじゃないの?」

「だって、敦賀さんと食べたかったんだもん。ホールケーキ」


蓮にはよく分からない理屈だったが、キョーコがこだわっている一部分は『自分と食べる』ためのケーキであることが読み取れ、ほんの少し胸中のモヤモヤが薄らぐ。


「ご主人が出してた条件に当てはまる時なら作ってくれるって言ってくれて、それで今日念願かなってここにそのケーキがある訳ですっ!」

「条件って?」


そうまでキョーコがこだわるのであれば、それなりの条件なんだろう。

でもそれならば、クリスマスも誕生日も特別ではあるけど年に1度はチャンスがあるはずで、気難しい店主が出した『条件』とは蓮には思えなかった。


「特別な人と、特別な時に食べるケーキだったら作ってやってもいいって…」


キョーコの口から出た条件に、蓮は思わず目を見開いた。

だるまやの大将の様なタイプのケーキ職人がそう暗示すると言えば…。

しかし目の前の恋人は時折ありえない斜め上方向に天然で、そんな意図は何も持ってはいないかもしれない。恋人の座に納まってなお進化する蓮の学習能力が警鐘を鳴らしている。


「…だから敦賀さんと一緒に過ごせるクリスマスと誕生日は当てはまると思ってお願いしてきちゃいました」


蓮と過ごすクリスマスで誕生日は特別な人と過ごす特別な日だとキョーコは言う。もちろん蓮にとっては喜ばしい言葉だ。言葉を言葉のまま解釈すればキョーコの条件は当てはまるのだろうけれど…その通りだろうけれど…。

きっとこの無邪気な笑顔でそう言いきられた店主は、自らの意図と異なっていてもこの注文を受けないわけにはいかなかったのだろう。自分同様この天然娘に振り回される大の大人の光景が蓮の瞼の裏にくっきりと浮かぶ。


「あっ、メリークリスマス!敦賀さん」


蓮がいろいろな方向に思考を巡らせている間に時計は0時を回って日付が変わる。


「お誕生日おめでとう」


キョーコの声に引き戻された蓮は、不意打ちを食らいつつも今年もまた一番にキョーコに祝いの言葉を贈る。祝福の言葉にキョーコはふわふわと花のように笑う。

小さな小さなホールケーキは切り分けずに、お互いにフォークをそっと突き刺して一口分取り分けた。


「はい、あーん」


ずいっと目の前に突きだされたケーキにキョーコは目を丸くしたが、恥ずかしそうに微笑んだあと素直に口を開き蓮の手に持ったフォークから最初の一口を口内に招き入れた。


「おいしい?」

「もちろんです!」


うっとりと目を閉じてケーキを味わうキョーコの喉が動いたタイミングで声をかければ、即座に返ってくる返答と同時に、蓮の目の前にも一口分のケーキが差し出される。蓮の意図など分からず自然に返しただろうキョーコの行動に嬉しい笑みが零れそうになるのを持ち前の演技力でカバーし蓮もケーキを味わう。


甘さ控えめで洋酒の効いた生クリームと、口の中で溶けるスポンジに酸味と甘みのバランスの良い苺。

二口目以降は自ら取り自ら口に運ぶキョーコを眺めて、蓮は用意していたハーフボトルのシャンパンを開ける。ぽんっという開栓の音にキョーコが振り返って蓮の手の中にあるボトルに目を見開くが、蓮はそれに構わずグラスにボトルを傾ける。トクトクとゆったりした音を立ててグラスが薄桃色に満たされる。


「美味しいね。このシャンパンなら合うと思うけど?」

「わっ…、きれい」


控えめな泡がはじけるロゼのシャンパンは美しいピンク色でキョーコを魅了する。


「ちゃんと味わったから、後はお酒との組み合わせを楽しんでもいいんじゃない?」


アルコールで鈍った舌で味わうのは失礼だと言っていたキョーコだけども、開けてしまったシャンパンは無駄にもできない。しっかりアルコールの抜けた身体はこの魅惑的な桃色とケーキのハーモニーも味わいたいと騒ぎ出す。


誘われるままにグラスを傾けて、ケーキを崩して会話を交わして始まったばかりのキョーコのバースデーは喜びに満たされていった。

ケーキが二人の胃袋に収まり、シャンパンの色を写したかのように薄桃色に染まったキョーコに蓮は笑いを含みながら話しかけた。


「今度ちゃんと、このケーキの作り主に注文を出そうね?」

「ちゃんと…?」


蓮の意図するところを計りかねているキョーコは首をかしげる。


「特別な日に特別な人と食べるケーキって、多分ウエディングケーキの事だと思うよ?」

「ふえっ…?」


くるんと丸くなった茶色の瞳に、蓮はくすくすと忍び笑いを漏らした。


「キョーコからのプロポーズ、嬉しかったよ」


グラスを片手に固まったキョーコの毛先を梳き、蓮はにっこりと微笑んでキョーコの手の中のグラスを取り上げてテーブルに置いた。


固まったキョーコの脳裏には、注文をお願いした時のケーキ店の主人の微妙な表情が渦巻いている。


「ファーストバイトも済ませちゃったし。いつにしようか、本当の結婚式」

「…あ、あ、あ・・・・あのっ…!」


事の次第を理解し始めたキョーコは、薄桃色からその頬の赤みを深めていく。


「予行練習、しちゃったね…?」

「つ…、つ、つ、つる…がさん…っ…」


アワアワとし始めたキョーコの唇の端に残っていたクリームを見つけた蓮は、ぺろりとそれを舐めとるとそのままチュッとキョーコの震える唇にキスを落とす。


「よろしくね、俺の未来のお嫁さん」


目を回して真っ赤になって挙動不審なキョーコを、マテをしたイイコな俺にも別腹のデザートを頂戴ねと蓮が寝室にさらって行く。


キョーコが自分の左薬指に嵌められた石をあしらった指輪に気が付くのは、朝日に照らされた翌朝の事…。