会社の帰り路。
同じ車両に乗り合わせたサラリーマンの中に、昔私がよく知っていたのと同じ背中をみつけた。
ちがうかな。
でも似てるんだよな。
斜め後ろ45度から眺めた耳たぶが。
頬の輪郭が。
首の太さが。
少し長めの襟足が。
例えば仮にそうだったとして。
なんて声をかけようかしら。
よっ。元気?久しぶり。
と掌を挙げればいいかな。
うふふ。
懐かしい日々を辿りながらひとつずつ丁寧に確認作業。
こぶしの大きさ。
ビジネスバッグのブランド。
腕時計の形。
すべて裏切られた挙句に最後に決定打。
停車駅を確認するために、文庫本から目を離してあげたその顔は全くの別人だった。
そりゃそうだよね。
こんなところにいるわけない。
今頃、家で子ども達をお風呂に入れてるに違いないもの。
思い出の世界から程なく戻り、期待をひとつずつほどいていく。
腕時計を右手にしてないこと。
それがオメガのスピードマスターじゃないこと。
カバンがTUMIじゃないこと。
だけど、やっぱりわたしはまだうふふの気持ちのままから覚めなかった。
別れてから10年以上も経つのにおかしいね。
ずっと前に好きだった人。
今でもたまに連絡がくるれど。
私の幸せを切に祈ってくれる人。
でも幸せにはしてくれなかった人。
嘘です。
あなたがいたから、私はいま笑っていて、変わらず幸せを噛み締めることができるのです。
ありがとう。