このひとの小説は、傷口にしみる涙のよう。


『私という運命について』も、そうだった。


山本文緒がドライな涙で爽快にさせるなら、


白石一文は、濃厚な涙でどん底まで優しく突き落とす。


どん底にいるときは、もう底の底まで一度見たほうがいい。


そうすると、這い上がる方法しか思い浮かばなくなる。


四編の短編集なんだけれども、登場人物が、みんな、いとおしい。


どん底にいるんだけれど、それぞれの道で、進もうとしている。


生きていれば、説明がつかないことって、ある。


言いたいけど言えない、それでも言わなくても伝わってることも、ある。


人間に生まれて、よかったよ。