7/8(2021)付けの

「年寄り二人暮らし③」で触れられていた「デンマークでの福祉の旅」

 

ですが、いまから20年以上前に枚方市では、海外の福祉行政の実態習得のため、海

 

外へ研修派遣をしていました。

 

s・mさんはその研修派遣メンバーの一員として、デンマークへ行っておられます。

 

その時のレポートの第3回目を掲載させていただきます。

 

 

補助器具倉庫

 

デンマークの福祉制度の中で、最高と思ったものは、補助器具倉庫だ。

 

補助器具を使わないで老人介護をすることは、無謀な話だ。

 

老人や障害者にとっても寝たきりにならないための大事な器具でもある。

 

それに介護者の腰痛を防ぐことにもなり、人手も少なくて済む。

 

何より在宅を望む老人が、より長く住むことができる等、補助器具なしでは老人や障

 

害者の自立は考えられない。

 

 

その器具を無料で貸し出ししているところが、補助器具倉庫だ。

 

本来補助器具センターは県立で、県は市に売り、市は必要な人に貸し出すのだが、

 

グラザセクセ市は独自の補助器具倉庫を持っている。

 

あっと驚く位、いろいろの工具や補助器具とパーツが並んでいる。

 

6人の人たちが働いていて、3台の車があり、午前中に要請があれば午後には運んで

 

いく。

 

 

 

作業療法士や看護婦の要請で必要な器具を整える。

 

本人が気に入るまで作業療法士や看護婦と共に何度でも改良する。

 

年間4,000回から6,000回供給している。

 

私たちが訪問したときも不要になったベッドを解体し洗っていた。

 

そこに訪問看護婦が赤い車(専用車)で飛び込んできた。

 

必要なものを注文されるとすぐにメモをし、明日には届けると言われた。

 

リアルタイムを感じた。

 

 

 私が気に入ったのは貸し出すところ。

 

日本は「買って与えるから」、改良などはなかなかしてくれない。

 

不要になれば捨てられてしまう。

 

使えるものをきちんと洗って修理して、又、使う。

 

物を大切にする。

 

堅実で優しさがうかがえる。

 

私には修理好きの家族が居るので「こんな仕事なら文句なしにやり甲斐があって楽し

 

いだろうなー」と親しみを感じた。

 

 

 

自立の勧め

 

 

デンマークには、「寝たきり老人」はいなかった。

 

脳障害による身体麻痺が起きた老人が、治療を終え退院すると、徹底したリハビリを

 

行い、後遺症を少しでも軽くし、家庭に帰す。

 

そして、必要な補助器具を貸出し、訪問看護婦やホームヘルパーを送り、デイケアセ

 

ンターに出かけたり、日常生活に刺激があっては、寝たきりにもなれない。

 

 

 

デイケアセンターには作業療法士の指導でレザークラフト、パッチワーク、洋裁、

 

物、料理等を楽しみながらやっていた。

 

 

トランプではお金を賭けて楽しんでいる。

 

水彩画が沢山掛けてあったので、「誰が描いたのか」訊くと、「先生が指導していて

 

そこに来る人達が描いた」と言われた。

 

夢の膨らむような楽しい絵が多かった。

 

 

それにしても寝たきりにならないようにするには大変なことだ。

 

甘やかしてももらえない。

 

これでもか、これでもかと起こされて、自分でしなければならない。

 

それこそ「残存能力の維持」である。

 

年老いても自立していかねばならない。

 

男も女もだ。そのあたりが日本人と違うところだと思った。

 

 

日本には年老いた者を子供が看るのが当然とか、

 

夫の世話をする妻といった関係の精神的土壌の中で、甘えの構造が出来上がってい

 

て、自立した対等の関係が生まれにくいところへもってきて、老後の保障が何もない

 

と、家族を頼るしかないのが現実だ。

 

高齢社会に突入する私たちは、自立した人にならねばと強く思う。

 

 

 ガイドの宮下さんから聞いた話の中に、

 

「子供は18才になると家を出て独身者住宅に入る。家賃は国や市が払ってくれる

 

(補助)。教育費は無料だから、生活費を親からの借金や、アルバイトをして稼ぐ。

 

そんなふうにして、親や社会から援助を受けながら自立していく。老齢になっても、

 

子供に看てもらうなど考えもしない自立した人になる」

 

と言われた。

 

 

 老後の生活保障が約束されている国の人と、子供を頼らねばならない(教育費に投

 

入してしまって何も残らない)国の人との違いかもしれない。

 

 

私達には本当に何の約束もない。

 

気持ちだけでも自立した人にならねばと思う。

 

ホルベックの市民が政策決定に参加したように、

 

私たちも行政を動かす努力をしよう。

 

よい政策や制度を支持し、そうでないものにはノーを言おう。

(つづく)