証言:シマリスのこの世の中で一番怖いものは、幽霊でも、ホラー映画でもなく、なんと「ムーミン」である。

何故と思われる方もいると思うが、幼少の頃は、ムーミンが大好きだった。お気に入りの湯飲みもムーミン。しかし、ある時、何気にお茶を飲もうとムーミンの湯飲みを床に落としたのが事の発端だった。
お気に入りの湯飲みが、割れて破片が床に散らばる。その無残な状況を見て、大泣きした。その夜のことである。夢の中にムーミンが登場した。あのアニメムーミンの歌の歌の歌いだしが始まる。ムーミンは自分の前にリアルに後ろ向きで立っている。
幼心にムーミンごめんねと声をかけた。歌詞が始まる「♪ねぇムーミン、こっち向いて」と自分の何倍も大きいムーミンが振り返った。その瞬間「・・・」何とムーミンがのっぺらぼうなのだ。あまりのショックに、ムーミンから逃げ出す。しかし
ムーミンはすごい速さで追ってくる。目の前に、ムーミンママとムーミンパパがいた。「助けてー」っと声をかけると、「何だい?」と振り返った。その振り返ったママもパパものっぺらぼう。あまりの恐ろしさにミーやスナフキンにも声をかけるがみんなのっぺらぼう。ニョロニョロまでのっぺらぼう。
ムーミン谷のすべてがのっぺらぼう。生まれて初めて死を感じた。その時、目が覚めた。非常に恐ろしい夢。こんな夢を年に何回か見るようになる。そのうちにトラウマになり。ムーミンを見ると背筋に鳥肌が立つようになった。
それから20年余り。前職の広告代理店に入り2年目。当時は大通り公園の夏祭りというと、前半の約2週間が、各テレビ局が、各ブロックごとに、夏祭りのステージを繰り広げ、後半は、今でも恒例のビアガーデンとなる。
初めて、某テレビ局のステージを先輩から引き継ぎ、14日間のステージの企画を練った。コンセプトは「昭和」。そして、協賛金を出していただいた企業を絡めたプログラムを入れることになっていた。大体のパターンでは、飲料メーカーならビール早飲み、おもちゃメーカーなら新製品を使ったゲームなどスポンサーをPRする内容である。
企画を立てているうち「!」と思われるスポンサーがあった。それば、某銀行。当時、その銀行は、なっなんとムーミンをキャラクターとしていたのだ。案の定、スポンサーからは、ムーミンの着ぐるみが届けられた。銀行のスポンサーで恐怖のムーミンを使った企画はないかとずっと考えていたが、相手はトラウマのムーミン。何のアイデアも浮かばない。でも企画書の提出期限が迫る。
しょうがないので、当たり障りのない、ムーミン昭和クイズ。という企画を出した。昭和の出来事を会場から募った参加者をステーjに挙げ当ててもらう。司会のお姉さんが進行を務めムーミンがアシスタント。ムーミンは正解者に正解マークを配ることと、トップ解答者にプレゼントを贈呈する役で、内容を固めた。
ムーミンに入ってもらう人も、退社した元山岳部の先輩。夏の多少の暑さでも着ぐるみを着て耐えれる頼れる先輩だ。
企画は、毎日恒例のイベントとして行うことになっている。
企画内容については、スポンサー並びに某放送局からOKをもらい、初めての現場ディレクター。頼れるものは誰もいない。通常のイベントは難なくこなしたものの、遂に例のムーミンイベントの時間になった。
先輩は、控え小屋でムーミンの着ぐるみを着ている。先輩から声がする。「足元が見えないけど、ステージに上がるまでエスコートしてほしい」との依頼だった。スタッフは司会のお姉さんとシマリスとムーミン、音響スタッフ以外誰もいなかった。「もう、逃げることはできない、ここを仕切っているのは自分だ。何とかしなければ」と思い、エスコート役をかってでるしかなかった。
イベントの時間。控え小屋からムーミンの手を引いてステージの階段を上がれるようにエスコートする。とっさに自己暗示をかけた。「これは、青い色をしたカバのぬいぐるみ。ムーミンではない青のカバのぬいぐるみ」となるべくムーミンと顔を合わせないように足元を見ながらステージ上に。その年は北海道としては暑い夏であったが、そのプログラムの時間になると冷や汗が出て寒気を催した。
初日のプログラムが終了し(なるべく出演者の顔と、司会者のお姉さんの顔しか見ないようにしていた。)ムーミンをステージの階段から下ろし控え小屋に連れていく。ステージから無事にムーミンを下ろし、控え小屋に連れて行こうとすると、ハプニング発生。
なんと、子供連れの親子が、子供と一緒に撮影させてくれと言うのだ。ムーミンは、親から見るとかわいいキャラクターで、子供たちの間でもかわいいキャラクターで人気者であった。
それまで自分に青いカバ問い聞かせていたのが会場のお客さんにムーミンこっち向いてくださいと、声がかかる。頭の中ではトラウマが発生する。でも、着ぐるみの中の先輩が気になる。
先輩が、ながい間着ぐるみを着て夏の灼熱の太陽を浴びているので、熱中症になってもおかしくないぐらいだ。次から次へ写真撮影の依頼がある中、遂にシマリスから幼少のころから避け続けていた「ムーミン」の名前の名前が口をついた
「ムーミンは、もう暑いからお部屋に入りたいって言ってるよ」写真を撮りたい人は次のステージを楽しみにしてね。と言って控え小屋へ連れていく。
仕事といえどもトラウマのあるムーミンの名前を出すのはとても辛かったのを覚えている。それよりも着ぐるみの中に入っていた先輩は酸欠と水分不足でいつもステージの度に倒れそうになっていた。
自分は、幼少の頃のムーミンのトラウマと闘いながら、先輩は灼熱のムーミンと闘いながら、お互いムーミンがより恐ろしい存在となった。
ちなみに、今でもいい歳をして、ムーミンと聞くと幼い子供が幽霊を恐れるように非常に怖がるシマリスであった。