高校のとき、相撲部の先輩にM先輩というがっちりとした筋骨隆々の体格で、毛深くて熊みたいな人で、顔はいかつく、相撲よりもプロレスが好きという人がいた。違うところで特別なトレーニングをしているらしかったが、稽古を真面目にやることはなく、性格はものすごくいいかげんで、かなり変わった人だった。このM先輩はたまにしか稽古に現れなかったが、来たときは弱い相手には容赦なくいろんな技をかけてくるので怖かった。自分がそのターゲットの一人だった(笑)たまにプロレス技をかけてくるので困ったりもした。
で、そのM先輩、もっと困ったことがあって、体臭がけっこう強烈な人だった。まず「お風呂に入ってるの?」と聞きたくなるほど特殊なにおいのする人で、どういうわけかウ○コのようなにおいがすることもあった。しかも、M先輩の廻しの色は一人だけ黒だったのだが、稽古後にその廻しを干さずにそのままロッカーに入れるので、廻しが発酵してちょっとカビたりもして、M先輩の体臭も染みこんだりもして、本当に臭くてたまらなかった。他の部員は、砂を落として、ちゃんと干してたのにどういうわけかM先輩だけは干すことはなかった。そんなわけで、稽古のときは廻しを掴むと手が臭くなるので掴みたくなかった。苦しい稽古で息があがってるときに、あのにおいを嗅ぐと意識がなくなったり吐きそうになった。体臭はまだ我慢できたけど、あの廻しだけはM先輩には悪いけど、本当に臭かった。
ちなみに周りの部員も臭いと思っていて、汗臭いのは全然平気と言ってるやつでもM先輩だけは・・と顔をしかめるくらいだった。他の先輩から「お前くせ~よ!」とよく言われたりもしたが、M先輩は笑って、何冗談言ってるんだと聞く耳をもたず、「お前の方がくせ~よ!!」と言い返したりもしていた。どうして本人はなんともなかったのか未だに謎だ。毒を持ってる蛇が自分には大丈夫みたいな感じだったのだろうか。他の先輩いわく、昔ボクサーと喧嘩して、鼻を殴られ、鼻が効かなくなったらしい(笑)
話は変わって、ある日の休憩時間の教室での柔道部のIと剣道部のSとおしゃべりしていたときのこと。柔道部のIが「剣道部はマジくさい!」と剣道部のSに冗談まじりに言いだした。柔道部と剣道部は部室が隣りどうしで、剣道場と柔道場は柔剣道場という同じ所にあったのだが、剣道部から臭いにおいがただよってくるので稽古に集中できないと冗談まじりにクレームをつけていたのだ。そしたら、剣道部のSも言い返し、「柔道部も汗臭いだろ!」と反論。
剣道部 vs 柔道部
のどっちが臭いか対決が勃発したのだった。そこで、「どっちが臭いか判定してくれ」という依頼がきた。「なんでわざわざお前らの臭いにおいをかがんといかんのや!」と最初は断っていたが、ジュースをおごってくれるとのことで、OKを出した。相撲部なら「白黒はっきりつけてくれるだろ」とわけのわからん説得もあったのだが。
で、その日の放課後、早速、3人で柔剣道場に行った。入った瞬間、なんか独特のにおいがした。柔剣道場は思った以上に広く、柔道場の方は畳と汗臭さのなんともいえないにおいだった。一方、剣道場は、防具のにおいなのか、汗臭さもあるのだろう。これまたなんともいえないにおいだった。
「さぁ、どっちが臭い?」早速、柔道部Iが聞いてきた。「どっちもどっちだ」と白黒つけられない自分。畳のにおいってけっこう好きだ。でも、決め手にかける。そんなこんなで、柔道着に着替えるI。柔道着をにおわせてもらったが全然臭くない。すかさず「その柔道着は洗ってるの?」と聞いたら「当たり前だろ」と即返。
剣道着に着替えたSもやってきたので、それもにおわせてもらった。これも別に臭くはない。が、そのときだった。Iがこれがめっちゃ臭いんや!と、いきなり
剣道の防具で手にはめる甲手を手にとり、いきなり自分の鼻に押し付けてきた。「うっ!」と一瞬意識がなくなるくらい臭かった。というわけで、軍配は・・
剣道部。決まり手は「甲手の臭い」
と、勝負あった。
そんな中、その判定に納得のいかないSが「そういえば、廻しって洗わないんじゃなかったっけ?」と普段はアホ丸出しのくせに、オレは知的なんだみたいな顔で得意気に言ってきた。「言われてみたらそうだ!」と勝ち誇りながらIも言い出した。いつの間にか
相撲部 vs 剣道部
という第2戦のにおい対決が行われようとしていた。メインイベントは
相撲部の廻し vs 剣道部の甲手
というどっちが臭いか対決。高校生ってこういう馬鹿馬鹿しいことに熱心になるときがある(笑)
そんなわけで、2人は相撲部のにおいをかがせろと相撲場についてきた。「どう考えても甲手の方がくさいだろ」とか、「稽古のあとの柔道部の方がくさい」とかまだ負けを認めないS。そんな言い合いしながら相撲場へ・・
そしたら相撲場では何人かの部員が廻しになって、土俵の整備をしていた。で、そこにちょうどM先輩もいた。そんなときに限って、満面の笑顔で悪臭を放ちながら近づいてきた。。
その瞬間、相撲部の勝利が確定した。