澤野弘之という作曲家については、今であればどちらかというとアニメの音楽好きに知られた名前であるように思うが、世間的に注目を浴びたのはやはり「医龍」のサントラであったように思う。といってリアルタイムでドラマを観ていたわけではないけれど。
好きな作曲家である。といっても、個人的にはだいたい「ギルティクラウン」あたりからの印象が薄かったりする。むしろここからアニメ界で有名になったような気もするが、あくまでも自分の評価としては、薄い。
そのあたりからの数年間は、この人はとにかく働いていた。粗製乱造、とまで言ってはさすがに酷だが、多作の才能と引き換えに何かを失っていったような気がする。
「アルドノア・ゼロ」はひさびさに「おっ」と思ったサントラだった。
何かと話題だった「進撃の巨人」は正直凡作だと思うが、「アルドノア」にしても全盛期の作に比べれば何枚も落ちるものではあるけれど、それでも好きといえる曲が何曲かあった。
最高傑作はどれか、という話になると、迷いなく「医龍」と答える。「3」も好きだが、才能の発露という1点を取るなら最初のシーズンに敵うものはない。
といって全作品聴いたわけではないが。
次点というか、個人的にものすごく好きな作品が「タイヨウのうた」である。ドラマ自体には一切の関心がないが。
澤野といえば「Red Dragon」に代表されるリズミカルなリフ主体の楽曲がイメージされるが、この人の才能の何より優れていたところは、歌心のあるメロディラインである。これは断言する。
澤野っぽい音楽は雨後の筍様に山ほど生み出されたが、この人のメロディを真似できてる人なんて見たことがない。
普遍的なラインなのだが。これを才能という。
「タイヨウのうた」は才能に満ちた若い澤野の清新なメロディの洪水のようなサントラで、何度聴いても飽きない。あるいは「医龍」以上に。
その後のイメージからすると澤野らしくはないかもしれないが、澤野の才能を味わうには最良の1枚であろう。
「医龍」「タイヨウのうた」、いずれも2006年の作である。
同じ年の澤野は、エロゲー原作のクソアニメとされる「夜明け前より瑠璃色な」のサントラを手がけている。
ずっと気になっていた。この年の澤野のサントラとはいかなるものか。
「ギガンティック・フォーミュラ」などもアニメ自体の出来はなんともいえないものだったが、サントラだけを取れば有名な「UC」の原型ともいえる素晴らしい出来であったことだし。
で、ようやく聴いた。「夜明け前より瑠璃色な」。
……1曲目から鳥肌が立った。
では言葉が足りない。本当に1秒で全身を何かが通り抜けていったようだった。「前奏曲 -We are not alone- TV size version」。
これは名曲である。あわててYouTubeでフルヴァージョンを聴いた。CDを買わねばと思った。本当に泣いてしまったよ。音楽でここまで感動したのは久々だ。
偽善的な歌詞といっていい。だけど音の響きと、歌声とで、ここまで心を揺さぶられるものかなあ。
基本的にやはりこの作曲家のメロディが好きだから、感動できるのであろう。この1曲を構成する1音1音が琴線に触れてくる。
https://youtu.be/olwWEuv-Ybs
なぜこれほどの名曲がベスト盤にも収録されることなく埋もれているのだろうと悲しい気持ちになる。
アニメ自体がどうとかでなく、音楽を聴いてほしい。こういうことがあるからサントラ漁りはやめられない。
