2月8日
この日は仕事が忙しくて睡眠が3時間しか取れなかったが、それでも夜彼女に逢いに車を走らせた。
先日の電話では、まだ答えが出ていないと言っていた。
どちらを選ぶか分からないと。
その事で直接話したかった、というのもある。
一昨日横浜で春向けのバーバリーのキャスケットを買ったので、それを早く渡したかったのもある。
もし僕が振られる結果になったら、もう渡せないかもしれないな・・・と思ったから。
その前に逢った時にも、
「君と別れる事になったらゴメンね。」
「本当は今日はその話をするつもりで来たんだ・・・」
と言われていた。
だから、正直ある程度の覚悟は出来ていた。
別れた後のことを、恨み辛みっぽいことを、それだけは絶対言わないようにしようと思った。
そう思って車を走らせた。
もちろん彼女に逢える嬉しさ半分で運転してたのもあるけどね・・・
彼女を拾って、以前に行こうと言ってて行けなかった葛西海浜公園に行った。
夜の散歩をしながら、現状を聞いたり彼女の気持ちを聞いたりしてみた。
簡単に整理すれば、
・旦那さんは彼女と別れる気は全く無い。
・彼女としては、どちらも悲しい顔をするから、可哀想でどちらも選べない。
他には、僕と生活していく姿がイメージ出来ないとかも言ってたな・・・
まぁ、ほぼ予想通りだ・・・
旦那に別れる気がなくても、彼女が僕を選ぶつもりなら、
具体的には彼女は旦那に離婚届を突きつけるくらいしないとならない。
でも、それはしないわけだ。
かと言って、僕に別れを告げる踏ん切りもつかない。
最終的に決めるのは彼女なんだけど、彼女一人じゃ決められないんだ・・・
だから僕が決めるしかなかった。
僕が身を引くしか選択肢はなかった。
覚悟はしていたけど、心臓が張り裂けそうに痛かった・・・
頭のなかがグルグルして吐き気がした・・・
彼女がこの後、旦那とうまく修復してやっていけるのかどうか、気まずい夫婦生活にどのくらい悩まされるのか。
それの元凶になる僕の存在を疎ましくも思った・・・
「終りにしよう・・・」そう言って彼女の家に向かって車を発進させた。
その時の彼女の表情は、驚いたような、悲しくもホッとしたような・・・どちらとも言えない顔をしていた。
家に着くまで最後の一時間だというのに、会話は無かった。
いつもの楽しい空気が不思議なくらい、静かで、暗くて、重い空間だった。
一言発したのが、途中車内の空気が乾いている事に気づいて、彼女に「目薬さしたら?」って言っただけ・・・
いつも彼女は車内が乾燥すると目薬をさしていたからね・・・
僕は彼女と手を繋いで歩いた場所や、彼女からのプレゼントの数々を走馬灯のように思い出していた。
きっとプレゼントは近いうちに処分しなければならないだろう・・・
彼女の思い出が残るものは全て。
そうしないと僕の精神は壊れてしまうから・・・
ずっと前に、「別れる事があって、プレゼントを捨てるくらいなら、もったいないから返してね♪」
と冗談半分で言われていた。
だから彼女を降ろしたら、最後に今日身につけてきたブレスレットとグローブは返そうと思っていた。
正直涙が出そうになるのを堪えるのが精一杯だった。
彼女の家の近く、いつも彼女を降ろす場所に着いてしまった・・・
顔を見るのは辛かったけど・・・これが最後だから・・・顔くらい見ておこうと思って、彼女の方を向いて顔を上げた。
彼女はこれまで見たことの無い悲しい顔をしていた・・・
泣き出しそうな酷い顔だった・・・
まるで捨てられた子犬のような顔・・・
捨てられるのは僕の方なのに・・・
泣きそうな顔のまま、彼女は僕に抱きついてきた。
彼女から一方的に抱きしめられるのは初めてだった。
彼女が本音で、本気で弱音を吐いたのもこれが初めてだったかもしれない。
普段どこでも明るく振舞う彼女だけど、実は彼女はコンプレックスを沢山かかえている。
我慢してるけど、諦めてしまっているけど、夢や希望も実はちゃんと持ってる。
そんな事は言わなくても分かってた。
そんなとこも全部ひっくるめて彼女が大好きなんだ。
本当は、本心は僕と別れたくないなら、やっぱり旦那には離婚を申し出てもらわなきゃいけない。
旦那さんが壊れるかもしれないけど、それは気の毒だとは思うけど、離婚してもらわなければならない。
彼女の弱さに、彼女の希望に気づいてあげられなかったのだから。
最後に僕らが出した結論は、『別れない事』『諦めない事』。
僕は彼女を二度と諦めない事。
僕に出来る事は何でも答える事。
彼女は時間がかかっても旦那との離婚話を進める事。
彼女に振られたら、転職先は海外経験の出来る会社を選ぼうと思っていた。
海外ならどこでも良かったし、待遇もどうでも良かった。
日本ごと彼女を忘れられそうな場所へ行きたかった。
万が一辛くて死にたくなっても、海外で死んじゃえば、さすがに彼女の耳には入らないだろうし。
でも、もうそんな事は二度と考えない!
絶対に諦めないと約束した。
彼女の隣は誰にも譲らないと約束した。
この先どれだけの苦悩や、負荷があったとしても絶対に負けない。
僕は彼女の未来になるんだ。