趣味のひとつに囲碁があります。
へっぽこ碁ですが、年に数回は
囲碁友を訪ね、盤上で夢ロマンを
語ります。
お相手は人生経験豊かな御高齢の方で、
とても清貧な茶人です。
碁盤の傍らには、いつも年季のいった茶道具
が置かれ、碁を打ち始めると、早々に一煎目の
お茶が入ります。
鉄瓶からのお湯が60°程度に冷まされると
備前焼きのほうひんに注がれ、待つこと30秒
ほどで、まったりと甘い一煎目のお茶が出され
ます。
初めていただいた時には、
「渋茶でございます」の言葉とはうらはらに、
〝えっ、お茶ってこんなに甘くて美味しいのか!!″
って、本当にびっくりしたのです。
一煎目をゆっくり味わって飲み干すと、茶葉は
そのままに、今度はお湯の温度を10°ほど上げ
二煎目が出されます。
甘味が消えて、渋みの味に変わります。
それも飲み干すと、また温度を10°上げて
約80°で三煎目が出されます。
甘味も渋みも消えて、苦みの味に変わります。
三煎目のお茶を時間をかけて味わい終えると、
今度はさすがに茶葉を新しくして、また一煎目の
お茶から順次出されるのです。
ちなみに、
四煎目は、熱湯に近い熱いお湯を注ぎますが、
もうそこには、甘味も渋みも苦みさえもなくなった
ほぼ白湯となります。
ただ、微かにお茶の香りとお茶の緑が残るだけ
で、この四煎目のお茶を「淡味」と言います。
お茶の世界では、四煎目を出されると
「どうぞ、お引き取りください!」
「どうぞ、お帰りください」って意味なので、
最後にいただいて帰るのです。
お付き合いを始めて数年後、
「無言石さんは、何煎目のお茶が好きですか?」
「そりゃあ、一煎目の甘いお茶が一番好きです。」
って答えたら、
「おっさんはなあ、四煎目が一番好きなんじゃ!」
って言うんです。
「ええっ?四煎目は甘味も渋みも苦みも何の味も
残ってないただの白湯みたいなもんでしょう。
なのに、なんで?」
「アハハ~、 四煎目にゃあなあ、
甘味も渋みも苦みもぜ~んぶ味わって味わって
味わい尽くした『感謝の味』がつまっとるんじゃ!」
人は誰でも、楽しいこと嬉しいことは
すすんで味わうことができます。
でも、
日々の生活の中では、苦しいこと哀しいこと
辛いこと寂しいこと・・・逃げたくなるようなこと
のほうが多い気がします。
折角今日を生きているのですから、そういう
ことも含めてすべてを受け入れ、思いっきり
味わってみてください。
そういう人の人生は深まり、そして輝いています。
特に若い人たちには
感謝の味、「淡味」 を存分に味わってほしいと
思います。
今日という日の舞台の主役はあなたです
きょう貧乏で苦しいなら
飢えと貧困を堂々と演じきる主役として
生きればいい
存分に貧困を味わい演じるのです
。o〇(*^ー^*)