【悪の組織】
犬「あのメイドさんたち可愛かったなぁ〜! やっぱりメイド喫茶は癒やされるわぁ。もう一軒くらいハシゴしちゃおうかな」
猫「メイド喫茶のメイドに胸焼け気味のお客様〜、あんなの本物のメイドじゃないとこだわりの強い本物志向のお客様〜よろしければ一度ご覧になっていってください〜」
犬「なんだあの呼び込み。ずいぶんメイドを目の敵にしているな、近寄らないでおこう」
猫「あ、お兄さん! ちょうどいいところに! 今しがたメイド喫茶から出てきましたよね?」
犬「見られてた? うわぁ、なんかヤバいのに声かけられちゃったなぁ」
猫「メイド喫茶いいですよね? 最高だと思います。でも、僕の中じゃあ、数多にある喫茶の中でメイド喫茶は二番手だ」
犬「なんか語りはじめてますけど? っていうか、喫茶店のベスト2がメイド喫茶なの!? すごい高評価じゃん!」
猫「うちも喫茶店をやっているんですよ、ぜひ寄っていってくださいよ」
犬「喫茶店? 怪しいお店じゃないの?」
猫「まさか! メイド喫茶のような所謂コンセプトカフェで、しかも! 今までにないジャンルのコンセプトカフェですよ!」
犬「今までにない? 本当? 僕ね、こう見えても色々行ってるから詳しいよ?」
猫「はい、見るからにキモ……自分の趣味にはお金にいとめはつけず追求していきそうタイプに見えますよね」
犬「おい、今キモとか言ったな! キモオタとか言おうとしただろ!」
猫「いえ全然!」
犬「まあいいけど、そこまで言うなら行ってみてもいいけど」
猫「ありがとうございます! 一名様ご来店でーす!」
犬「なんで居酒屋みたいな掛け声なんだよ」
犬、猫の案内で店内に入る
猫「お帰りなさいませ、少佐!」
猫、犬に敬礼をする。
犬「少佐?」
猫「あ、このお店でははじめてお越しいただいたお客様は皆さん少佐からスタートします」
犬「ああ、そうなんだ。少佐って、何? ここはミリタリーカフェかなんか? 言っておくけど、ミリタリーカフェってすでにあるからね」
猫「いえいえ、こちらはミリタリーカフェではありません」
犬「じゃあ、何カフェよ? 店内は黒や赤を基調としたカラーリングで薄暗く、BGMは時折獣のうめき声とかが流れていて何かが潜んでいるかのよう……そもそも店員さんの格好は全身黒タイツ……?」
猫「当店は、悪の組織カフェになります」
犬「悪の組織カフェ?」
猫「はい、お客様は悪の組織の幹部となっていただき、店員である戦闘員からおもてなしをさせていただきます」
犬「お客は悪の組織の幹部で店員は戦闘員。ということは、僕は今自分のアジトに帰ってきた、って感じなのかな?」
猫「左様です」
犬「なかなか面白いじゃん。でも、少佐ってなんか幹部にしては中途半端じゃない?」
猫「もちろん、はじめてのお客様は少佐ですが、こちらのポイントカードでポイントを貯めていただくと幹部ランクがアップしていきます。ポイントを貯めていただきランクを上げていただくと、中佐、大佐と上がり、それ以降は、男爵、将軍、首領、閣下、BOSS、教授、博士など役職名をお選びいただけます」
犬「なるほど」
猫「女性の方にはさらにクィーン、女王様などとお呼びすることもできます」
犬「ああ、悪の女幹部って奴ね」
猫「小学生のお子様には王子、Jr、二世などお選びいただけます」
犬「悪の組織に小学生入れないでくれる? いないでしょ? 悪の組織の小学生幹部見たことある?」
猫「さらにお孫さんと一緒に来店されたお祖父様お祖母様のことは、頭にGODを付けさせていただきます」
犬「頭にGOD?」
猫「あ、大幹部のご帰還だ!」
犬「誰か入店してきた?」
猫「GOD田中将軍に敬礼!」
犬「ええ!? GODついている! GODってそういうこと!? なんかダサいけど大丈夫? っていうか、将軍なの? おじいちゃんかなり通ってるってことだよね!?」」
猫「GOD田中将軍、どうぞVIPルームへ」
犬「しかもこのカフェ、VIPルームがあるの!? カフェだよね? コーヒーとか飲むのにVIPルームがあるの?」
猫「VIPルームにはすでに健太首領王子がお待ちになっています」
犬「首領王子? その役職名変じゃない?」
猫「ちなみにVIPこのルームの部屋の名前は地獄の間です」
犬「悪の組織っぽいけど入りたくはない部屋名。というかダサさがエグいよ」
猫「さあ少佐はこちらへ、只今メニューをお持ちします」
犬「ああ、喫茶店だもんね」
犬、ソファに腰掛ける。
犬「座り心地がいい豪華なソファだけど、周囲から聞こえてくる猛獣っぽい声で少しも落ち着かないな」
猫「おまたせしました。こちらメニューになります」
犬「あーはいはい。ううん? この『暗黒の雫』って何?」
猫「そちらは外界ではコーヒーと呼ばれる飲み物です」
犬「『黄昏の落涙』は?」
猫「紅茶ですね」
犬「『聖女の生き血』は?」
猫「トマトジュースです」
犬「中二病なの?」
猫「いえ、悪の組織です」
犬「じゃあこの『禁断の果実を封じた魔法陣』っていうのは?」
猫「そちらは悪の組織特製のアップルパイになっております」
犬「『密輸入肉を使用した禁制スパイス煮込み』は?」
猫「悪の組織オリジナルビーフカレーですね」
犬「血染めの怪文書サービス?」
猫「オムライスにケチャップで脅迫メッセージを書かせていただきます」
犬「いらんいらん、そんなサービス! っていうか、ここは何の悪の組織なの!? ジャンルがわからんよ!? もう、じゃあこの暗黒の雫と禁断の果実を封じた魔法陣ください」
猫「承知いたしました。サービスで猫と犬が選べますが、どちらがよろしいでしょうか?」
犬「猫か犬?」
猫「猫は黒猫、犬はドーベルマンをご用意しております」
犬「黒猫とドーベルマン? 確かに悪の組織のボスとかがよく連れているけども! コーヒー飲むのにドーベルマンいたら飲みにくいわ。いいよ、静かに飲みたいから、コーヒーだけで」
猫「承知いたしました。少々お待ち下さい」
猫、コーヒーをアップルパイを持ってくる。
猫「こちら暗黒の雫と魔法陣になります」
犬「長いから魔法陣って略しちゃってるじゃん。ああ、コーヒーとアップルパイだね。良かった、商品は普通じゃないか」
犬、コーヒーを一口飲んで見る。
犬「ううん? このコーヒー? やけに美味しい?」
犬、アップルパイを食べてみる。
犬「ええっ!? このアップルパイもめちゃくちゃ美味しいじゃん! 色々なところ行ったけど、こんなに美味しいの食べたことないよ!」
猫「当店は本物志向ですから」
犬「こんなに美味しいってことは……もしかして、凄く値段がするんじゃ? そう言えば、値段見ないで注文しちゃったし……」
猫「二つ合わせて六百円になります」
犬「ええ!? 価格もリーズナブル!」
猫「我が悪の組織は良質な商品を納得の価格でをモットーにしています」
犬「全然、悪の組織っぽくないじゃん」
猫「いえ、これからたくさん通っていただき、骨の髄までシャブラせていただきたいと思っております」
犬「最後だけ悪の組織っぽいねって、もういいよ」
了