【カフェの流儀】
犬、窓際の席でゆっくりとコーヒーを飲みながら
犬「このカフェは私のお気に入りだ。座り心地のいい椅子に適度な高さのテーブル、店主が選ぶBGMも私の好みだし、通りから少し離れた隠れ家的な立地も非日常的な特別な気持ちにさせてくれる……そう、最高が揃うカフェなんだけど……」
犬、カウンターの向こうにいる店主猫に目を向ける。そこに別のお客が(鳥)が入ってくる。
猫「へいらっしゃーい!」
鳥「お、今日も威勢がいいね!」
犬「いい雰囲気の店なのに、店主がまるで寿司屋の大将……」
犬、頭を抱える。
鳥、カウンター席に座る。
猫「今日は何にいたしやすか?」
鳥「ああ、そうだなぁ、いつものもいいんだけど、なんかオススメとかある?」
犬「BGMを無視した軽快なやりとり!」
猫「実はなかなか手に入らない豆が手に入ったんですよ」
鳥「へぇ、それはなんて豆だい?」
猫「ブラック・アイボリーって言いましてね、ゾウの体内でハーブや果物と合わさりながら自然な発酵がされ、コーヒー特有の苦味がなく、やわらかな口当たりのコーヒーでさあ。あまりに希少なんで馬鹿みたいに高い豆なんですがね、特別なルートで格安で入手できたんですよ」
犬「謎なルートに確かな知識!」
鳥「ほぅ、そりゃいいね! じゃあ、それ、一杯もらおうか!」
猫「へい! 少々お待ち下さい!」
犬「やりとりが寿司屋……! 雰囲気のいい店なのに、あの店長がぶち壊し来ている……! でも……」
犬、コーヒーを一口飲む。
犬「美味い! 確かな技術! 唸らざるえない!」
猫、コーヒーをドリップしはじめる。
犬「あんな変な入れ方なのに!」
鳥「いやぁ、店長のコーヒーの入れ方はいつ見てもカッコいいねぇ!」
猫「ありがとうございます!」
犬「いや、カッコよくないよ!? コーヒーを入れているにしては変化球すぎるし! なんで寿司握るみたいに入れるの!? どうやってるのそれ? それに動きとBGMが最高にあっていないんだよ、どっちかに寄せてくれよ!」
猫「へいお待ち! ブラック・アイボリーぜひご賞味ください!」
犬「寿司! なぜ、寿司出すみたいにカウンター越しにコーヒー出す!?」
鳥「お、いい色だね、香りもいい」
犬「そしてお客が楽しんでいる時にそれとなくガリを出すように砂糖とクッキーを添える! 動きが寿司屋! そこまで寿司屋なのになぜ板前の格好じゃない!?」
鳥「うまいね、このコーヒーさすが大将だ」
犬「お客も大将とか言っちゃってる! いや、確かに、店の雰囲気はいいし、コーヒーも美味い、でも、あのやりとり、寿司屋みたいな? 江戸っ子的な、ああいうの苦手なんだよね。最高の店だとは思うけど、これは落ち着かないや。この店は今日で最後にして、もっと落ち着けるところを探そうかな……」
肩を落とす犬のところに猫が近づいてくるとコーヒーカップを置く。
猫「お客さんもぜひ飲んでくださいよ」
犬「え? いや、このコーヒーって凄く高いんじゃないですか? 私はそんなお金はないし……」
猫「お金じゃないんですよ、本物がわかる人に飲んでもらいたいんだ。お客さんならわかると思ってね」
犬「ああもう、好き!」
了
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