
- アトリエで西田氏の思い出を語る五十嵐さん(豊島区長崎で)
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昭和初期から戦後にかけて多くの芸術家たちが住み、パリの芸術家村になぞらえて「池袋モンパルナス」と呼ばれた東京都豊島区長崎で、当時の姿をとどめるアトリエ付きの住宅が一般公開される見通しとなった。
こうした建物は空襲で焼けたり、戦後の高度経済成長期に建て替えられたりして、ほとんど残っていないという。見学者の受け入れに向け、所有者や画廊経営者らが補修工事に乗り出す。
この家は木造平屋で、1930年代半ばに建てられた。居室は4畳半と狭く、風呂もない。しかし、居室の隣には15畳ほどのアトリエが広がり、家全体の面積の3分の2を占めている。
アトリエには5メートルほどの高さに、採光のための天窓がある。ほかにも大型のキャンバスが出し入れできる細長い扉など、創作活動に適したつくりになっている。今は誰も住んでおらず、近くの画廊経営、五十嵐健市さん(77)が管理している。
五十嵐さんによると、最後の住人は洋画家の西田宏道氏。西田氏は2012年2月に93歳で死去するまでの約70年間、1人で暮らしながら創作活動を続けた。柔らかなタッチの画風が特徴で、西武池袋線沿線の自然風景を多く描いた。アトリエ内には絵の具跡が残るパレットや、絵筆や紙を入れて持ち運ぶ箱など、西田氏の遺品も残されている。
五十嵐さんは64年、絵の具メーカーの社員として、池袋モンパルナス周辺を営業で回っていた時に西田氏と知り合い、親交を深めた。西田氏について、「他人にこびるような絵は描かなかった。『ここが好きだからいじりたくない』と言って、家の改築も行わなかった」と振り返る。
西田氏の死後、家の管理を任された五十嵐さんは、「ぜひ中を見たい」と希望する絵画ファンらを個人的に案内してきた。好評だったことから、一般公開を検討。所有者と建築士を交えて、公開に必要な補修・耐震化工事について協議を始めた。公開は事前申し込み制で、少人数の団体を対象に行う予定だ。
五十嵐さんは「周りにはかつて、同じような家が多く立ち並んでいた。補修が終わったら見ていただき、当時の画家の息づかいを感じてもらえれば」と話している。