
お茶の水女子大副学長(教育社会学) 61
- 耳塚寛明氏(伊藤紘二撮影)
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安倍政権では、首相直轄の教育再生実行会議が次々に提言を行い、幅広い分野で教育改革を打ち出した。今回の衆院選で問われる教育の課題を、学校現場に詳しい識者らに聞いた。
幼児教育無償化、実現費用どうする
教育改革が打ち出されるスピードは、安倍政権になって確かに上がった。いじめ防止対策、教育委員会、大学入試――。かつて中央教育審議会が時間をかけて論議していたことを、再生実行会議を活用し、財界の意見も吸い上げてあっという間に政策化する。中教審は具体策を論議するぐらいだ。
ただ、再生実行会議では議論が深められず、財源を確保し、念入りに制度を考えたような政策はあまりみられない。例えば、2020年度から予定している小学校英語の教科化にしても、本来は指導教員の養成から見直すなど、導入には時間も費用もかかるはずだ。
再生実行会議が提言した幼児教育の無償化は、自民党の選挙公約にも盛り込まれた。ぜひ実現してほしい政策ではあるが、3~5歳の全員を対象にすると年間7000億円以上かかり、財源のめどが立っていない。
文部科学省では、年収360万円未満の世帯の5歳児から段階的に無償化したい意向だが、これも年間200億円以上かかる財源の確保が厳しいという。
国際社会で活躍するためには、知識を活用し課題を解決する力が大切だ。そうした能力は幼い頃の体験で培われ、家庭環境で差がつきやすいため、国際的に幼児教育が重視されている。日本でも、保育所に教育の視点を加えるなどして質を高める必要がある。
低所得層から幼稚園・保育所を無償化して家庭環境による教育格差を縮小し、女性の就労支援にもつなげてほしい。
35人学級、高学年や中学に拡大を
財政難を背景に財務省は、小学1年生に導入されている35人学級を見直し、40人学級に戻すべきだとする案を示した。来年度予算で教員数を増やしたい文科省を抑えるのが目的だろうが、論外なことだ。
少子化社会では、次代を担う子ども一人一人の能力を引き出すきめ細かな指導が求められる。一部の自治体が独自に行っているように、むしろ35人学級を高学年や中学に拡大することを考えるべきだ。ただ、「少人数学級が有効な根拠を」と財務省が求めるのは一理あり、文科省は調査研究を行う必要がある。
予算の重点配分は大学にも拡大している。理系の研究を重視するだけでなく、地道な大学教育にも投資が必要だ。少子化だからと一律に予算を削らず、学力や教育機会の格差を広げないよう財源を維持することが、未来への投資になる。(聞き手 古沢由紀子)
教育費の公財政支出 経済協力開発機構(OECD)諸国の教育に対する公的支出の割合は、2011年の国内総生産(GDP)比で平均5.3%。これに対し、日本は3.6%にとどまり、データのある31か国中最下位だった。日本は他国に比べGDPが高く、少子化で児童生徒が減っている影響もあるが、特に就学前教育、大学教育の家計負担が大きいとされる。
中教審は昨年4月の答申で、国と地方の教育支出について将来的に「OECD諸国並み」を目指すよう求めた。