
バレリーナ
- 森下洋子さん(清水健司撮影)
-
主役を務めた舞台のカーテンコールで会場が明るくなった時、驚きました。後方の客席が、当時通っていた吉祥女子高校(東京都武蔵野市)の制服でいっぱいに埋まっていたからです。
先生と同級生や先輩300人ぐらいが、チケットを購入してわざわざ駆けつけてくれていたのです。感謝の気持ちがこみ上げました。そうした学校ぐるみの応援は、その後も何度もありました。
故郷の広島市で3歳でバレエを始め、小学6年生で単身上京した私は、当時、指導を受けていた先生の自宅に住み込みで修業を続けていました。
市立中を卒業後、高校に進学しましたが、毎日、バレエのことで頭がいっぱい。稽古だけでなく、先生や他のお弟子さんたちの食事作り、掃除、洗濯、それに衣装を徹夜で縫う作業などにも追われくたくた。学校では、授業中に居眠りをしてしまったり、舞台の直前は休みがちになったり。運動会や修学旅行などの学校行事も全く参加しませんでした。
そんな私を先生や同級生たちは大目に見てくれました。3年の時は、卒業させるために担任の先生が「最後の3学期だけは休まないでくれ」と言ってくれました。
先生や同級生には、他人に思いをかけることの大切さを教えてもらいました。卒業後、母校は時々、私のために公演を企画してくださります。そのことに深く感謝し、少しでも恩返しになるよう精いっぱい踊っています。客席で拍手してくださる生徒や先生を見ると、修業中だったあの頃を思い出します。(聞き手・鳥越恭)
プロフィルもりした・ようこ 1948年、広島市生まれ。74年、バルナ国際バレエコンクールで金賞を受賞。松山バレエ団団長。文化功労者。(2014年5月29日付読売新聞朝刊掲載)