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病気、施設入居…「そのとき」は突然に

 

  年老いた親の介護や死をきっかけに、家の片付けを迫られ、戸惑う子世代が増えている。

  子世代と言っても多くが50歳前後で、そのモノの多さに驚くという。帰省などで親と話す機会が増える時期、暮らしぶりを確認し、家の片付け方を話し合う好機でもある。

 

  「こんなにたくさんのモノが詰め込まれていたとは」。さいたま市の主婦(58)は昨夏、義父(89)と義母(88)の部屋に夫と一緒に片付けに入って驚いた。

  1階に義父母、2階に主婦と夫、子どもが暮らす2世帯住宅。遠慮もあって、1階では客間より奥に入ることはなかった。ところが、義父が昨年、脳梗塞で半身不随となり、動きやすいように家財を片付ける必要があった。

  廊下に置かれた本棚は何十年も前の園芸や料理雑誌でぎっしり。食卓は調味料の小瓶などが散乱していた。さらに夫が高校生の時の制服や教科書、何年も前に処方された薬、ほこりをかぶった記念品のタオル100枚以上も出てきた。贈り物とおぼしき食用油は古くて使える状態ではなかった。

  それらを捨てようとすると、義母は「あら、こんなのあったの」と懐かしそうに話し、捨てようとしない。業を煮やした夫が「使わないだろ」とどなると、義母は泣き出してしまった。

  そのため、1階は今も片付いておらず、義父はベッドとトイレの周辺を行き来するだけ。「すっきりと片付けて、義父が家の中を歩けるようにしてあげたいのですが……」

 

  横浜市内で事業を営む藤田勝寛さん(40)は6月、神奈川県で一人で暮らす父(78)を介護施設に入居させた。2階建てで5部屋あった家から6畳一間への引っ越し。「持って行けたのは仏壇とテレビ、衣類と食器ぐらいでした」

  空き家となった家にはたくさんの家具や生活用品が残り、父は時々、思い出したモノを探しに帰りたがる。借地のため、最終的に更地にして持ち主に返さなければならない。「父のため、しばらく残しておいた方がいいのかも。本格的な片付けは先になりそうです」と困惑した様子で話す。

 

  親の家をどのように片付ければいいのか――。近年、そのハウツーをまとめた本が相次いで出版されるなど、一般の関心が高まっている。

  例えば、主婦の友社が昨年出版した「親の家を片づける」。好評でシリーズ化され、これまでに計約11万部を発行した。特に50歳前後の子世代の読者から実体験をつづった手紙が数多く寄せられるという。

  同書の企画・編集を担当した石井美奈子さんは「親の家の片付けは、介護、葬儀、相続という節目に起こる一つの過程としか思われてこなかったが、かなり大変なことだと最近理解されるようになった」と話す。

  現在、70~80歳代の親世代は、戦前戦後のモノのない時代に育ち、「もったいない」という考え方が根付いている。同時に高度経済成長期に働き盛りを迎え、モノが増えていくことで豊かさを実感した世代でもある。そのため、家に不要なものをため込んでしまう。

  そうした親の状況を、子世代は把握できないでいる。核家族化が進み、親子でも互いの生活に深く干渉しないようになっていることが影響しているという。その結果、気が付くと親の家がモノであふれていたというケースも多いのだという。

  石井さんはアドバイスする。「できれば親がまだ元気なうちに、家をどうするのか話し合っておいた方がいい。片付けには体力と気力が求められるので、できれば50代のうちに親の家をチェックし、明らかに不要なものだけでも片付けることをおすすめします」