
創業から5か月で上場した配達ベンチャー
覚えていますか、ウェブバン。
「史上最大の大失敗ドットコム」との悪名高い生鮮食料品の配達ベンチャーです。1999年6月に創業し、あっという間にベンチャーキャピタルから8億ドルを調達、サンフランシスコで事業を開始。さらに、創業から5か月で上場、売り上げが500万ドルしかないのに時価総額は10億ドルを超すに至りました。
ウェブバンはまた、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)の現役CEO(最高経営責任者)を引き抜いたり、全米の主要都市をカバーする倉庫を10億ドルで発注したり、とドットコムらしい華麗なアクションを次から次へと繰り出したことでも話題を呼びます。そしてその戦略は「高級スーパーのホールフーズ(※)の品質+大衆スーパーのセーフウェイ(※)の価格+自宅まで配送」。
1000億円近い壮大な「生鮮食料配達実験」
今見たら、何もかもがめちゃくちゃです。しかし、当時はインターネットという革命的な新技術さえ使えば不可能も可能になるようなイメージが世の中にはありました。
もちろんそんなことはなく、創業から2年後の2001年7月にウェブバンは倒産。上場で公開市場から集めた資金の3億7500万ドルとベンチャーキャピタルから集めた資金を足すと、1000億円近い壮大な「生鮮食料配達実験」が行われた、とも言えましょう。
グーグル、ウォルマートも続々参入
- アマゾン・フレッシュのサイト
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しかしいま、その惨憺(さんたん)たる実験結果の灰の中から「生鮮食料品の配達」という事業が不死鳥のごとくよみがえってきています。
アマゾンは2007年から、「アマゾン・フレッシュ」というサービスを地域限定でトライアル的に始め、現在はシアトル、ロサンジェルス、サンフランシスコに市場を広げています。グーグルも「ショッピング・エクスプレス」と称して、シリコンバレーで配達事業を始めました。ウォルマートも、サンフランシスコとデンバーで配達を開始しています。それ以外にも、2012年に創業したポストメイツ、インスタカートといったベンチャーが5~6都市で事業展開しています。
ウェブバン出身者が推進するアマゾン・フレッシュ
もちろんどの会社も、ウェブバンと全く同じことをしているわけではありません。ベンチャー数社は配達要員をフリーランスのコントラクターにしたり、大企業側は限定市場で「利益の出るビジネスモデル」をきっちり作り込んでから他地域に拡大するといった方法をとったりと、それぞれ「利益の出る体制」づくりに精を出しています。アマゾン・フレッシュに至っては、主要な事業推進メンバーのうち4人はウェブバン出身者という、念には念を入れた「あの過ちは繰り返さない」という構えです。
とはいえ、国土が広大で都市部ですら人口密度が低めのアメリカでは、生鮮食料品配達事業はまだまだ全米展開にはほど遠い状態ですが、それでも、2000年には全人口の43%だったインターネット利用者割合は2012年には81%とほぼ2倍になっており、ドットコムバブル時とは全く違う事業環境であることは間違いありません。
いよいよ本家本元が復活か
最近、さらに本家本元のウェブバンのファウンダーが新たな生鮮食料品配達ベンチャーを計画中、というニュースも報道されました。ファウンダー氏は、ウェブバン倒産2年後の2003年に「(生鮮食料品配達事業の)機会はあった。今もある。そしてまた戻ってくる」と、ターミネーターか、はたまたマッカーサーか、といった言葉を語っていますが、それがまさに現実になろうとしているのでありました。
※いずれも、アメリカに本部を置くスーパー・マーケット・チェーン