『NEWSに恋して』
「ストーリーイベント
    幼なじみと夏の恋    〜恋花火〜 ①」
 加藤シゲアキ編 彼目線


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何故俺はあんな感情を持ったのか
何故俺はあんな行動を取ったのか


まるでわかっていなかった


ただ


珍しく浴衣なんて着てくるから


いつもと違う格好を見た瞬間


心のスイッチが入ってしまった




花火に火が灯るように




その時からきっと


打ち上がるまでのカウントダウンは既に
始まっていたんだーーー






その日は毎年恒例、近所で七夕祭りが開かれていた。
俺たち5人は、社会人になってからも必ずこの日は全員集まって、みんなでお祭りに行くのが恒例だった。
いつもの通り、礼の家の前でたむろしながら礼を待つ。
今日は珍しく小山が遅れずに、待ち合わせの時間前に到着していた。それに比べて、いつもは誰よりも早い手越はまだいない。
きっと仕事が推しているんだろうと、この時は特に気にも留めていなかった。

「お待たせ・・・」

ガチャッと扉が開いて、礼が姿を見せた。
その瞬間、わちゃわちゃと話していた俺ら3人ははっとして黙り込み、礼をじっと見つめた。
しばらく誰も声を出さず、ぎこちない雰囲気が流れる。
耐えきれなくなったのか、最初に沈黙を破ったのは礼だった。

「・・・やっぱり、変だよね?」

出てきた時からあまり元気がなかったのは、恥ずかしかったからなのだろう。
俺らと目を合わせようせず、もじもじと下を向いて、落ち着きなく手で腕をさすっている。
礼は、白地に紫と青の菖蒲が描かれた、大人っぽい浴衣を着ていた。
髪は結わえて簪で止め、後れ毛が何本か首をつたっている。気のせいか、化粧もいつもと違う感じがした。

「いやいや、可愛いよ!びっくりした!

小山がすかさず礼を褒める。
顔はニッコニコで、明らかに礼が可愛くて仕方がないといった様子だ。

「やっぱり女の子の浴衣姿っていいね!」

女性を褒める小山は、こうやって裏表なく素直に言えるのがすごいと思う。

「うん、可愛い!よく似合ってるよ」

続いてまっすーも礼に笑顔を向ける。
髪が崩れないように、優しくポンポンと頭を撫で、「髪型も上手に出来たね」なんてさらっと言っている。
俺は完璧に出遅れて、けれど何も言わないのも悔しくて一言だけ告げた。

「うん、思ってもみなかったから驚いたけどね」

・・・我ながら、なんて可愛げがないコメントなんだろう。

小山もまっすーも、礼を囲んでわいわいと話をしている。礼もすっかり安心したのか、顔を上げて笑っていた。
その眩しい顔を見て、俺の心臓がトクンと大きく跳ねた。


なんでだろう。なんだか、落ち着かない。


会話に所々参加しながらも、俺は心のざわめきを抑えられず、俺自身の扱い方に困っていた。
この感覚、昔どこかで感じたことがある気がするーーー
そう思うが、どこで感じたのかなかなか思い出せない。
その時、聴き覚えがある高いトーンの声が聞こえた。

「お待たせ〜!」

「お〜手越遅いよ!・・・って、あれ?」

小山がいち早く気づいて声を掛けるが、振り向きざま、また身体が固まっている。
俺も手越の方を見やり、同じく固まった。

「え、手越も浴衣!?」

まっすーが驚いた声を上げる。
そう、手越も浴衣を着ていたのだ。甚兵衛などではなく、明るめの灰色をベースに濃紺で格子柄が描かれた浴衣で、黒い帯でびしっと締めている。
金髪に純和風な姿が異様に似合っていて、男から見てもかっこいいと思ってしまう。
普段着過ぎる、Tシャツにだぼっとしたカーゴパンツの俺の姿が、なんだか惨めに思えてくるぐらい。

「ごめんごめん、着付けるのに手間取っちゃって!」

へへっと明るく笑いながら、いつも通りの手越。
俺の心は、いよいよざわざわしてきてうるさかった。
だって、これってつまりーーー

小山も俺と同じ考えに至ったのか、少しニヤニヤしながら手越と礼を交互に見た。

「え、なに、そういうこと!?」

「ん?なに?」

「いやいやお二人並んでみなさいよ。
ほら、もうどこからどうみたって、ねぇ?」

「ねぇ?」

まっすーも乗っかってニヤニヤしている。
当の手越はハテナ顔だが、礼の顔は当惑しながらも頬に赤みを帯びて、恥ずかしげに目を伏せている。
そんな顔、今まで見たことがなかった。
なんだか知らない女性になってしまったみたいだ。

「じゃあ、俺らお邪魔のようだから!」

「そうだね、気付かなくてごめんね!楽しんで!」

小山とまっすーが片手を上げて、一歩ずつ離れて行く。
俺は自分の心と向きあうことを拒否して、形だけの笑みを浮かべた。

「俺らは俺らで楽しむから!」

言っておきながら、絶対にそうは出来ないことを確信している自分がいた。
それでも、もうこれ以上二人を見ていられなくて、スタスタと祭り会場の方へ歩き始めた。

「え・・・シゲくん!?
ちょっ、え?みんな行っちゃうの?

礼の慌てた声が聞こえたけど、振り向かなかった。
小山もまっすーも俺についてきて、二人はにこやかに浴衣カップルに手を振っている。
恒例のお祭りは、紅一点を失って始まろうとしていた。






お祭り会場は人が溢れていて、陽気な音楽と人のざわめきで賑やかだった。
俺らはビールや焼き鳥、お好み焼きなど、各々好きなものを大人買いしながら、存分に飲んで食べた。
すっかりとお腹は満たされ、ベンチを陣取ってビールをちびちびと飲みながら、だらだらと会話を続ける。

「やっぱり夏はビールだねぇ。
特に外で飲むビールは最高だよね!」

「ビールには餃子だよね!
けどお祭りに餃子ってないよね?何でかな?
冷凍餃子焼くだけだよ?めっちゃ楽じゃない!?
ねぇ、シゲ、餃子食べたいよ〜」

「知らんがな!!」

「いやいや、考えてもみなさいよ。
お祭りだよ?夏の夜だよ?
恋人達が餃子なんて食べるわけないでしょ〜」

やけに悟ったような小山の言葉。
切り捨てておきながら、内心、確かに餃子のコスパや材料の少なさを考えるとお祭り向きだと思っていた俺は、小山の言うことにも一理あると思った。
俺らのようなサラリーマン世代には最高だろうが、女性はまず口にしないだろう。

ーーーいや、礼なら絶対に食べるな。

ふと満面の笑みで餃子を頬張る姿を想像して、俺は思わずニヤついてしまった。
それを小山が目敏く見つける。

「な〜にニヤニヤしてんの?
俺の知らない美人同僚のことでも考えてんでしょ?

「ちげぇーよ!てか、それしつこい!
ただの同僚だって言ってんじゃん」

この前偶然、仕事で同僚といるところを礼と出会った。
会話も交わして同僚だと紹介したのに、礼は何を勘違いしたのか、特別な関係だと思ったらしく、手越とまっすーにそのニュアンスで話をしてしまった。
小山は仕事でその場にいなくて、後からの会話で小山が知らない同僚の話が話題に上がり、しばらく小山は会話についてこれなかった。
そしたら小山は大人げもなく、「俺だけ知らない」と拗ねてしまったのだ。
それ以降、事あるごとに突っかかってくる。

余計な事を話して、と礼には思ったが、一方で俺も、礼が一緒にいた会社の後輩のことを手越とまっすーについつい話してしまっていた。
少し前に、礼はその後輩から彼氏がいるのかと聞かれ、どういう意味かわからずに悩んでいた。
その当の後輩が、礼と一緒にいたのだ。
いわゆる可愛い系の後輩で、テンションが高いが甘え上手そうな奴だったのを覚えている。


いい歳になって、こういうところは学生ノリのままだ。
俺らの間で知らないことはない、隠し事はない。いつも一緒。


だからこそ、二人もきっと思っているはずだ。


別れてから一切話題には上がらないけど。
それは暗黙のうちに、触れてはならないことになっていると、少なくとも俺はそう思っていた。
だから「二人」がいないのに、いつも通りにはしゃぐ「二人」が、少し無理してるようにも見えた。
だらだらと話しながらも、ぎこちなさと、触れないように慎重になっている危うさがあった。

手越は、礼が浴衣を着てくることを知っていた。
むしろ、手越が言ったのだろう。
礼に浴衣着てよ、と。
じゃないと、礼が自分で積極的に着てくるはずがない。
そして手越はそのことを俺らには言わず、自分もと浴衣を着てきたんだろう。
手越のことだから他意はなくて、ただ着たかっただけかもしれないけど。

「けど同僚とかいいよね。後輩も先輩も。
俺、仕事上の付き合いはあるけど、一緒に働く人いないからなぁ

まっすーは家の近くで雑貨店を開いている。
お洒落なまっすー自身が選んだものを取り扱っており、一点物や海外から取り寄せている商品もある。

「あ〜そうだよね。
まぁ・・・無い物ねだりかも知れないけどさ、一緒に仕事をするのも大変よ?
みんながみんな仲間だとは限らないし。
何にしたって、人間関係の問題は付き纏うし」

小山は商社の営業マンとして働いていて、いわゆるサラリーマンの世界で頑張っている。
最近は特に忙しそうなのか、疲れていることが多い気がする。

「確かに、一人で気楽な部分はあるかな」

俺は心ここに在らず状態で、二人の会話に全然入る気になれなかった。
ただ目の前を通り過ぎていく人達をぼんやりと見やり、たまに白い浴衣姿の女性がいると、つい顔を確認してしまう。
見たくなんてないのに、それでも見ないではいられない。
今頃、何してんだろうーーー


「ねぇねぇ、ゲームやろうよ、ゲーム!」

「お、いいね!やっちゃいます?」

まっすーの提案に小山が乗り、二人はいそいそと立ち上がる。

「ほらほらシゲも、美人同僚のことはいいから〜」

「だから違うって言ってんじゃん・・・!」

俺も渋々立ち上がり、二人の後をついていく。
ここで浴衣姿を見続けるよりは、幾分気が紛れるだろう。

「まずは射撃かな〜、おじさん、はい500円ね!」

早速射撃の屋台に入り込み、まっすーが意気揚々と袖を捲り上げる。

「あ、あれ可愛い!あのにゃんこ!
まっすーとって〜」

小山の甘えた声に、ぶわっと鳥肌が立った。

「うわっ、気持ち悪い・・・女子か!
てかあれ可愛いか?」

小山が指したのは、目が三角で胴が長い猫の置物だ。
独特な配色で、紫と黄とピンクと緑が入り混じっていて派手派手しい。
まだ顔が可愛ければと思うが、口を半開きにした間抜けづらにしか見えない。

「可愛いよ〜!のほほんとして癒される!
礼なら絶対・・・」

そこまで言って、ハッと小山が口を噤んだ。
俺は何も反応出来ず、無言で小山を見つめる。
気まずい雰囲気を破ったのはまっすーだった。

「あ〜〜〜おしいっ!あともうちょい!
・・・っておい、俺の銃さばきを見ろよ!」

まっすーは気づいてるのかいないのか、小山の背中をトンと押す。
意外と力が強かったのか、小山が油断をしていたのか、「おっと!」と前によろける。

「はい、ちゃんと見る!小山もシゲも」

「「はい・・・」」

眉をしかめた顔でビシっと指をさされ、いい大人二人が怒られる。
俺たちは大人しく並んで頷いた。
するとまっすーがにやっと笑って、俺たちもつられて笑う。

今までも何度まっすーに助けられただろう。
まっすーはいつも緩衝材のようで、喧嘩したり衝突するときは、いつもふわっと中に入ってくれた。
そしたら、何であんなに腹立ってたんだろうと思うぐらい、心がすっと落ち着いて冷静になれた。
きっとまっすーは全部わかってる。
わかった上で、わからないふりをしてくれている。
普段はとぼけたふりをして、まっすーは誰よりもみんなのことを考えてくれていた。

パンっと弾が勢いよく飛び出した。
残念ながら猫にはかすりもしない。

「ちょっと全然だめじゃんまっすー」

「難しいんだよ!じゃあほら、やってみ!」

まっすーが頬を膨らませて、小山に銃を渡す。

「よっしゃ!俺がお手本見せちゃうよ〜?」

何故か得意げに銃を構えた小山だったが、弾は余裕で空を切る。
本気で落ち込んでいる小山を見て、俺とまっすーは大爆笑した。
それから俺も巻き込まれて、猫争奪戦の火蓋が切って落とされた。
むきになった大人は怖い。
結局、全員で5000円近くつぎ込んで、まっすーが可愛くもない猫の置物と、俺は狙ってもなかった小さな熊のぬいぐるみをゲットした。
使ったお金と得たものを比べて、また3人で大爆笑した。
最初にあったぎこちなさが取れたようで、いつのまにか心から楽しんでいる俺がいた。







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