しがらみの憂鬱

しがらみの憂鬱

僕と愛実の物語。

Amebaでブログを始めよう!

「そういう事なんだよねっ」


困った顔はかわらないけど


愛実は明るく言った。




そしてそれが悲しかった。


この子は今努めて明るくしている。


怒られると思っているんだろうか


嫌われると思っているんだろうか


わからない。


今日初めて見せる暗い一面。


ただ、包んであげたかった。




愛実の気持ちを解いてあげたかった。


僕はベッドに寝転がり、少し端に寄り、言った。


「あー抱き枕欲しいなぁ。どこかに抱き枕ないかなぁ。」




愛実が飛びついてくる。


俺の腕の中にすっぽりと収まり、腕をまわしてくる。


何も言わずに、俺を強く抱きしめていた。


「よしよし。」


俺は愛実の頭を撫でていてあげた。


何も喋らなかった。


何も聞かなかった。


ただ、俺は彼女を許容していた。


「大丈夫だよ。」


愛実は何も言わず抱き返してくる。




10分、15分、時間がたって落ち着くと、愛実の体から緊張がとれた。


「お母さんとね、仲がよくないの。」


彼女は言葉を続けた。


「多分、嫉妬だと思うけど。


お母さんは新しいお母さんで、後からうちにきたから


それでもお父さんからしたらあたしは可愛い娘。


お母さんはそれが面白くなくて、たくさんいやがらせされた。」


俺は、ただ、頭を撫でて聞いていた。


「勉強をしっかりするっていう名目でね、あたしは家を出されたの。


なのに突然仕送りが遅れたり、なかったりする。


財布の中に20円しかない時もあった。


おかしいよね。


一番辛かったのは、模試のお金が払えなかった事。」




愛実は、時々強がって明るい声を出していたが


やっぱり泣いていた。




実は俺の家も家庭環境はぐちゃぐちゃ。


小学生の頃に両親が離婚して


父親はつい数年前に再婚して


やっぱり俺と後妻との関係はうまくいってない。




痛い程よくわかった。


"風俗をするのが一番楽な道"


なんて揶揄する言葉を聞いた事がある。


でも、高校生の愛実にはそれしかなかった。


一番楽だけど、それしか選べない


一番厳しい道。




俺はもう一度、愛実を抱きしめた。

「そうだ、愛実、0時30分から予定があるんだった。」


「え?」


急にそんな事を言い出した。


友達と勉強をする約束をしているらしい。


友達は0時までアルバイト。


勉強?友達?


「あ~予備校生なのか、愛実。」


「ほんと、内緒だよ?」


はにかんだ笑顔。




受験勉強は懐かしい。


高校生の頃は俺も、1日に何時間勉強できるか、と自分と勝負していた。


凄く厳しい毎日だったけど、もしかしたら一生の中で一番充実していた時間かもしれない。


「ちょっと見せてみろよ。」


学力なんて全くもう無くなっているのはわかっていたけど、見たくなった。


純粋な気持ちだった


けど


愛実はそれを嫌がった。


やっぱりバッグを開けたくないらしい。




まぁ、人間生きていれば秘密のひとつやふたつある。


それに知らなくてもいい事とか、知らない方がいい事があるのも知っている。


だからいいんだよ、それはそれで。


ただ、今回のケースは別。


その秘密がある事によって、楽しいはずの時間が、素直に楽しめない。


こんなハチャメチャの出会いで、なんのしがらみもない2人なのに


そこに秘密があるのはなんとなく、俺の中では不自然な事だった。




基本的に"駆け引き"というのが俺は嫌い。


だってそんな時間もったいないから


素直に向き合った方がよっぽど早い。


だからもう聞いてみたんだ。


「なぁ、なんでそんなバッグ開けるの嫌がるんだ?


明らかに不自然だぞ。笑」


でもまぁ、言い方はキツくはしないんだけど。


「ん~~~。どうしようかなぁ。」


「何がだよ。笑」


キツく言えば、人は余計に心を閉ざす。


「真之になら言っちゃってもいいかなぁ。。。」


「いやいや、そこまで言ったら言えって。


別に聞いたからって俺はどうこうしないさぁ。


まず、どうこうするメリットが俺には何もない。笑」


そう、何のしがらみもない2人だから。




「ん~。。。」


少し考えて、愛実がバッグを開ける。


出てきたのは封筒。


そこから、模試の紙が出てきた。


この間テスト受けれなかったから、勉強用に問題をもらってきたらしい。


そこまでは問題ない。




で、いや、まぁ


なるほど。


だから愛実はバッグをあけたくなかったのね。


封筒を見て納得した。


愛実も俺がそれを見ている事に気が付いていた。


今度は、困ったようにはにかんでいる。




封筒には≪私立○○○高校≫と、書いてあった。





部屋に入るなり愛実はカツラとニット帽をとる。


そこには、さっきまでの由唯がいた。


風俗店で出会った二人が、今、僕の部屋にいる。




「なんできたの?」


落ち着いてもう一度聞く。


「なんでだろうねぇ。でも、愛実の中の何かが行けって。笑」


そういう愛実の笑顔には、一点の曇りもなかった。




正直に言えば、トークにも、性技にも、それなりの自信がある。


だからと言って、風俗嬢が、コロリと、堕ちる。


そんな自信は全くない。


もっと言えば俺は疑っていた。


美人局か?


ホテルの前に強面の男が待っている。


もしかしたら俺は眠らされて、財布だけとってかれる。


そんな事が頭の中に居座る。




愛実は楽しそうだった。


本当に楽しそうで、嬉しそうで、適当に話を合わせているだけのつもりが


いつの間にか、ちょっとずつ、楽しくなっている。


それでも俺の中の疑いは晴れる事はなかった。


だって今日、俺、初めて風俗行ったんだよ?


それでこんな状況、普通じゃない。




俺を見つめながら「まさゆきぃ~」とニコニコして呼ぶ。


話しかけてるわけでも、中身があるわけでもない。


ただ、俺とこうやって時間を共にして、それが凄く嬉しくて


俺を呼びたくなってしまってる


そんな風に思わせるだけの感情のこもった、愛実の声。


そして俺も、そんな愛実を可愛いと思ってしまう。


ただ、造形としての可愛さだけでなく。




「それさぁ、ただ俺に追いつきたくて、精一杯背伸びして呼び捨てにしてるんだろ」


そう言うと、愛実は"にやぁ"っと笑う。


「バレた~?やっぱり真之って凄いわ。えへへへへ」


「わかったから、ニヤニヤしてんなって。」


そう言うと、また、「まさゆきぃ~」って呼びながら、抱きついてくる。


いや、飛びついてくる。


やっぱり、そんなんが、ね、バカみたいだけど


可愛いんだ。




「はいはい。」と愛実を引き離して椅子に座らせる。


楽しい。


嬉しい。


気持ちいい。


愛実の気持ちは素直に受け止めたい。


でも、それだけ信用できるものもない。




俺は愛実の事を探り始めた。


持ち物チェック、とか言いながらバッグを漁ろうとする。


それに、愛実は、過敏に反応した。




これだけ、俺になついてきているのに、はっきりとした拒否。


「ほら、乙女の荷物はそんな風に見るもんじゃないんだよっ」


なんて言いながら、明らかに不自然だった。


そして不自然に、自然に、愛実は笑顔で話しかけてくる。




秘密が、ある。


それを暴くべきか。


いや、暴くべきなんだ、わかってる。


でも、愛実のストレートな感情が、凄く気持ちよかった。


不安や疑問はある。


ただ、何も知らないこの楽しい時間が


もう少し続けばと思う気持ちも否定できなかった。