いつもの喫茶店でいつもの席に座り

いつものキリマンジェロを頼む。

喫茶店に入るのはこれで三軒目だ。

もちろん目の前に彼女の姿はない。

ソファに背もたれて

セブンスターに火をつける。

はきだす紫煙とともに

彼女の幻影がもわもわと浮かんだ。

 

喫茶店を出て彼女と別れたあと、

阿波崎はどうしてもこのまま

まっすぐ家に帰る気になれなかった。

レイトショーを見終わった夜半、

そのまま帰宅するのが

もったいないと感じるように。

 

自宅の最寄り駅まで電車を乗り継ぎ、

改札を抜けると宝クジ売り場で

ナンバーズを三通り買った。

彼女の誕生日と自分の誕生日、

それに今日の日付を綴る四桁を三通り。

それから夕刻の商店街をぶらぶら歩き、

夢遊病者のように

ふらりとパチンコ屋に入った。

五千円すったところで我に返り、

映像のウルトラマンに

「馬鹿らしい」

とはき捨て店を出た。

 

そのまま歩いて

家の近くまで来たが

やはり家路は重く、

馴染みの喫茶店まで引き返してきた。

 

一年ほど前、

偶然見つけたこの店に

通うようになったのは、

うまいコーヒーを淹れてくれるのと

ウェイトレスに美人が多いのが理由だ。

が、なぜだろう。

今日のコーヒーは

それほどうまくない。

独りで飲むキリマンジェロと、

彼女と飲む出がらし味のコーヒー。

ここはやはり

出がらしに軍配が上がるのか。

 

妙に納得した阿波崎は、

新しい煙草に火をつけた。

煙を目で追いながら店内を見渡すと、

喫煙席に座っているのは

阿波崎の他には誰もいなかった。

広くもない店内で

分煙にしたところで

なんの意味があるものか。

そう思ってはみたものの、

時勢は当然ながら

喫煙者を除外する。

 

彼女に会ったのは

同窓会のときと今日の二回だけ。

多い日には三箱近く吸う

ヘビースモーカーの阿波崎だが、

彼女の前で

煙草を口にしたことはまだない。

今後もおそらくないだろう。

彼女の喜ぶことを探すのは難しい。

ならばまず、

嫌がることはしないこと。

これがオトナの思考というものだ。

 

もしも今後、

彼女と頻繁に

会えるようになったとして、

それでも変わらずに

煙草を我慢できるだろうか。

そしてその先、

仮に彼女と

肌を交えることになっても、

その我慢は続けられるのか。

そしてまたまたその先、

もしも彼女と

暮らすようなことになったなら……。

 

そろそろ禁煙する時期かもしれない。

いやいや、

そんな空想が現実になるなど、

総理大臣になるよりもあり得ぬ話。

 

ふん、禁煙なんてクソ喰らえだ。

そう毒づき、

すぱすぱと煙の雲を作った。

そして大きく息を吸い込むと、

それを勢いよく吹き飛ばす。

跳べ副流煙。

いざ禁煙席へ!

 

今回は長かったですが

最後までお読みいただき

ありがとうございました。

まだまだ続きがございます。

 

それではまたバイバイ