双子といいながら、私ラウロと兄のマルチェ
ロは見た目にもあまり似ていなかったのですが、
それ以上に性格がかなり違っていました。兄弟
の仲は必ずしも悪くなかったのですが、成長し
て性格の違いがはっきりとしてくるにつれ、私
にはマルチェロの一面が理解できなくなってい
きました。マルチェロも私に対して同じように
感じていたと思います。その結果、二人とも互
いに遠慮して、相手のことに必要以上の口出し
はしないようになっていました。今となっては
後の祭りですが、兄のことをもっと理解してお
けば良かった、少なくともその努力をするべき
だったと思います。
いつまで経っても子供じみた真似をしている
自分と比べると、兄は感受性が強いと言えばい
いのでしょうか、自分より随分と大人びていた
と思います。私より背が高く、色白で物静かな
所はどちらかといえば父親譲り、一方、真っ黒
になるまで友人たちと外で遊び呆けていた自分
は母に似ているとよく言われたものです。兄弟
として同じ環境で育っていながら、こうも違っ
ていれば、相手に対して複雑な感情を抱くよう
になったとしても不思議ではないでしょう。私
はいつしか兄と正面から向き合うことを避ける
ようになっていました。
母も祖母も、兄弟に対しては分け隔て無く平
等に接してくれましたが、少なくとも祖母のお
気に入りは間違いなく兄の方でした。祖母の信
仰の話を疎ましく思っていた私に対して、兄は
祖母の話を素直に受け止めていましたから、そ
れは当然かもしれません。
それでも、兄は芸術に興味を持っていたし、
父の工房を喜んで手伝っていましたから、いず
れは父の跡を継いでカトリックになるのだろう
と漠然と思っていました。ところが意外なこと
に、ひねくれ者の私が信仰について友人たちの
間をコウモリのように飛び回っている間に、兄
は早々にヴァルドとして洗礼を受けることを決
めてしまったのです。兄がヴァルドとして洗礼
を受けると決まった時、祖母は泣いて喜んでい
ましたが、その裏側で、祖母が巧妙に動き回っ
ていたのは勿論です。
しかし、例えそうだとしても、やはり私には
理解できませんでした。マルチェロがなぜヴァ
ルドとして洗礼を受けることをかくも迷い無く
決めることができたのか。マルチェロに何かが
起こって、信仰に対して確信を持つことができ
たというなら、まだ話は分かります。
しかし、そうではないのです。
私は知っています。マルチェロがヴァルドに
なることを決めた本当の理由を。
マルチェロはヴァルドの娘に恋をしていたの
です。
それはフランチェスカという名の女の子でし
た。
いかにもヴァルドの娘らしく、黒のコットの
上から白い肩掛けと前掛けを付け、白い頭巾で
髪を包んでいました。その頭巾からいつも黒い
髪が巻き毛となってこぼれていたのは、お洒落
をしたい年頃の女の子ならではの罪の無い反抗
だったのでしょうか。敬虔なヴァルドの家で育
った少女でしたが、とても陽気で、いつもくす
くす笑いながら、道を歩くにしても、まともに
歩くというより栗鼠のようにちょこまか走り回
っている印象があります。それでもほっそりと
した手足の動きはとても優雅で、何でもない仕
草が時に踊っているかのように見えたものです。
どちらかと言えば内気な兄でしたが、目は口
ほどに物を言いという言葉もあります。兄を注
意深く見守っていた者からは、その気持の揺ら
めきを隠すことはできなかったようです。そう、
兄のフランチェスカに対する気持に最初に気が
付いたのは、祖母だったのです。
祖母は自分の娘の恋愛でよほど懲りていたの
でしょうか。もはや孫の将来を成り行き任せに
するなどということはせず、兄の気持を察する
やここぞとばかりに恋のキューピット役として
動き始めました。
祖母は何やかやと理由を付けては、焼き菓子
やら葡萄酒やら林檎やらを持って、フランチェ
スカの家に押しかけました。そうやって贈り物
攻勢を仕掛けておいて、ついにはフランチェス
カがお返しのものを持って、祖母の元を訪ねて
くるように仕向けたのです。
当然、フランチェスカが家に来る時には、何
も知らない兄のマルチェロを家に置いておきま
した。そして、突然、現われたフランチェスカ
を前にして動くこともできなくなっている兄の
向かいの椅子に、これまたもじもじしているフ
ランチェスカを無理矢理座らせ、自分は「ちょ
っと持って行って貰いたいものがあるから待っ
ててね」とだけ言い残し、二人だけを残して外
に出てしまうのです。
或る日、私が祖母の家に行くと、祖母が樹の
陰から自分の家を伺っている所に出くわしまし
た。
「おばあちゃん、何してんの?」
私が後ろから声を掛けると、祖母は慌てて、
「ほら、そっちに行くんじゃないよ!、隠れて、
隠れて」と私の腕を引っ張ります。
「いや、おばあちゃんの家に行きたいだけなん
だけど?」
「今は入れないよ」
「どうして?」
「家の中にマルチェロとフランチェスカがいる
んだよ」
「え? そんなことさせといていいの? それ
ってまずいんじゃ?」
「堅いことお言いでないよ、お前は。いつから
そんなに堅物になったんだい」
「だって……」
「だってじゃないよ、二人の仲を邪魔するよう
な無粋な真似をしちゃだめだよ」
「そりゃ、しないけど」
「それから、このことはアンジェラには内緒だ
よ」
「こんなこと母さんには言えないよ」