セヴィニエ夫人の手紙 (警戒すべき人物) | アルプスの谷 1641

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1641年、マレドという街で何が起こり、その事件に関係した人々が、その後、どのような運命を辿ったのか。-その記録

 

 
 
 セヴィニエ夫人が 「良き友人」 と言っている 「ショルヌ公爵」 ですが、
 
一族にとっては、舐められることのあってはならぬ、警戒すべき人物だった
 
ようです。 ショルヌ公爵がグリニャン邸を訪れた時、フランソワーズがとて
 
も上手に歓待したことをセヴィニエ夫人が褒めそやしています。 
 
 ショルヌ公爵は 1989年 までブルターニュ地方の司令官でした。 同年の 
 
8月 12日 にローマ教皇、インノケンティウス 11世が死去しており、この時、
 
外交官としてローマに派遣されています。 このため、文中、セヴィニエ夫人
 
は公爵を 「外交官」 とも呼んでいます。 
 
 一族内の内輪な話なので内容が分かりにくいながらも、何とか訳出してみま
 
したが、何か気付いた点あれば、ご指摘いただけると幸いです。 
 
 
 
以下、注です。 
 
 

ショルヌ公爵
 
Charles d'Albert d'Ailly, 3rd Duke of Chaulnes
 
 

クーランジュ
 
セヴィニエ夫人の母方のいとこ。 セヴィニエ夫人とは生涯を通じて、親しい
 
友人であり続けた。 
 
 

フレイム
 
手紙の内容からすると、グリニャン家の召使い。 
 
 

ポーリン
 
フランソワーズの娘。 セヴィニエ夫人の孫。 
 
 

 
1989年 9月 18日 ロシェにて。 娘フランソワーズへ。 
 
 
 九月一日付の手紙がついに私のもとに届きました。 きっとレンヌの方に
 
行っていたに違いありません。 時に私宛の手紙が辿る余計な旅路です。 手紙
 
が、本来入れられるべきの袋とは別の袋に入れられてしまうのです。 誰の責
 
任かは分かりませんが。 ともかく手紙は届きました。 これを受け取れなかっ
 
たら、大変、悲しい思いをしていたことでしょう。 この手紙は私が聞き逃し
 
てしまったお話について教えてくれますから。 私たちの良き友人である
 
ショルヌ公爵の来訪についての速やかなお知らせ、彼に対する貴女からの親
 
しみを込めた素晴らしい歓迎、格式のあるご家庭、おいしいお料理を、彼が
 
ブルターニュでやるように二台のテーブルに載せて贅沢にふるまったこと、
 
沢山の方が会食に同席されたこと。 冷たい風に邪魔されることも無かったよ
 
うですね。 (風があったら) 音がかき消されて、会話どころではなかったこと
 
でしょう。 風の邪魔が無かったとしても、やらなければならなかったことは
 
貴女の手にあまるものでした。 フレイムが万事を心得て貴女に仕えてくれま
 
すから、慌てず立派に取り仕切ってくれたことと思います。 その様子すべて
 
が目に浮かぶようで、言葉に尽くせない喜びを感じます。 貴女には御自分の
 
名誉を誇っていただきたかったのです。 ともかくも郷土 (プロヴァンス) の
 
誇りを。 エクスはさらなる名誉を誇る場所ですから。 そして、ショルヌ公爵
 
には私たちが食べているチキンやベーコンを添えたオムレツとは違ったもの
 
味わっていただきたかったのです。 彼は今や貴女に何ができるかをご存じで
 
す。 貴女がその気になればパリで何でもできることも。 公爵は酸いも甘いも
 
弁えておいでです。 羊のパイと鳩のパイの違いも。 
 
 クーランジュさんは道化の役をとても上手くこなしました。 彼はまだ現実
 
の世界に戻ってはいません。 私は彼が変わってしまうことを恐れています。 
 
あの明るさは彼の大きな長所のひとつですから。 そちらで、彼は喜びに満た
 
され、周囲で起こっていることの総てを興味深く眺め、非の打ち所の無い
 
ポーリンに夢中になっていたことでしょう。 貴女はいつも、クーランジュ
 
さんが愛想良くしているのは、公爵とその取り巻きの前だけだと仰って非難
 
しますが、私たちに対しても朗らかなのは明らかです。 貴女も五年前の夕食
 
会はとても楽しかったと仰っていたではありませんか。 
 
 ここにショルヌ公爵からの手紙があります。 (これを読めば) 彼が、あなた
 
がた皆に、そして貴女が一族の名誉を護るそのやり方に好感を持ったことが
 
分かるでしょう。 彼は "才能 (genius)" についてお話して貴女を笑わせまし
 
た。 私の話はここには書かれていませんが、そんなことよりも、もっと楽し
 
いお話をいたしましょう。 貴女は (私について) 彼が言うであろうことはご
 
存じですし、私との思い出を充分尊重してくださいました。 貴女は私を幾度
 
か話題に載せ、私の健康を祝して杯をあげてくださいました。 クーランジュ
 
さんが椅子の上に立っていたとか。 鞠のような体型した不器用で小柄な彼が、
 
そのような曲芸をしたと聞いた時は、はらはらしました。 私の健康を祝うこ
 
とで、彼がひっくり返ったりしなかったので安心いたしました。 クーランジ
 
ュさんからの手紙が待ち遠しいです。 貴女が楽しそうに語ってくれたように、
 
フレイムの魔法の杖の力を借りて用意したお食事は、魅力的で人を虜にする
 
ものであったに違いありません。 音楽はとても斬新で、ヴェルサイユ
 
の動物たちのショーを思い起こします。 ともかく、貴女の言う通り、貴女は
 
最高の雅量を持って、ともすれば貴女に非常な害を為したかもしれない外交
 
官に、かくも暖かなもてなしをしました。 きっと彼はこの事でとても混乱し
 
たに違いありません。