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10月1日より 「エピローグ」 (全5回) 毎日更新です。
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「エピローグ」 (3)
第二次世界大戦中のことである。
戦わずしてイギリス軍に降伏したイタリア軍部隊がいた。
「俺たちはクロムウェルの軍隊とは戦わない」
彼らはそう言って戦いを放棄したのだった。
イギリス軍将校たちは、三百年も前の話を持ち出して降伏したイタリア
の部隊を、何たる時代錯誤と馬鹿にして笑ったが、従軍牧師はその兵士た
ちが山岳兵の恰好をしていたことから、それはヴァルドの民ではなかった
のかと考え、ミルトンのソネットを詠唱すると、笑っていた将校たちも沈
黙したという。(注)
主よ、復讐を。
滅ぼされし聖人たちの万骨は
凍てつくアルプスの山々に散る
彼らこそは、我らの父祖が木石を拝みし時に
主より与えられし無二の真理を守り続けた者なり
忘れ給うことなかれ、主の忠実なる羊たちの
その苦しみの声が永久に記されんことを
彼らはその囲いの中で、血に飢えたピエモンテの軍勢に屠られ、
子供を抱いた母親は岩と共に転がり落ち、
その苦しみの声は幾重にも谷間にこだまし、山々を越え、天に達す
殉教者たちの血と灰は
三重の圧政が君臨するイタリアの大地に撒かれ
そこから育つ百倍の民は、その悲劇から学び、
バビロンの嘆きからいち早く逃れることであろう。
(訳 吉高)
(注 「ヴァルド派の谷へ」 (西川杉子著) 収録の逸話より)