エピローグ(3) | アルプスの谷 1641

アルプスの谷 1641

1641年、マレドという街で何が起こり、その事件に関係した人々が、その後、どのような運命を辿ったのか。-その記録


 
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「エピローグ」 (3)
 

 

 


 第二次世界大戦中のことである。
 
 戦わずしてイギリス軍に降伏したイタリア軍部隊がいた。
 
「俺たちはクロムウェルの軍隊とは戦わない」
 
 彼らはそう言って戦いを放棄したのだった。
 
 イギリス軍将校たちは、三百年も前の話を持ち出して降伏したイタリア
 
の部隊を、何たる時代錯誤と馬鹿にして笑ったが、従軍牧師はその兵士た
 
ちが山岳兵の恰好をしていたことから、それはヴァルドの民ではなかった
 
のかと考え、ミルトンのソネットを詠唱すると、笑っていた将校たちも沈
 
黙したという。(注)
 
 
 
 主よ、復讐を。
 
 滅ぼされし聖人たちの万骨は
 
 凍てつくアルプスの山々に散る
 
 彼らこそは、我らの父祖が木石を拝みし時に
 
 主より与えられし無二の真理を守り続けた者なり
 
 忘れ給うことなかれ、主の忠実なる羊たちの
 
 その苦しみの声が永久に記されんことを
 
 彼らはその囲いの中で、血に飢えたピエモンテの軍勢に屠られ、
 
 子供を抱いた母親は岩と共に転がり落ち、
 
 その苦しみの声は幾重にも谷間にこだまし、山々を越え、天に達す
 
 殉教者たちの血と灰は
 
 三重の圧政が君臨するイタリアの大地に撒かれ
 
 そこから育つ百倍の民は、その悲劇から学び、
 
 バビロンの嘆きからいち早く逃れることであろう。
 
 (訳 吉高)
 

 (注 「ヴァルド派の谷へ」 (西川杉子著) 収録の逸話より)