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第4章 「脱出」 第10節 は 9月10日 に投稿します。
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第4章 「脱出」
9. ジェラルド
「裏切り者、ヴィート、そこにいるのは分かっているぞ! さっさと出て
来い! この臆病物、この俺が怖くて出てこれないのか」
不気味な声が木々を通して、響き渡った。 黒い甲冑を付けた騎士がゆっ
くり馬を進めるのが、一瞬、木々の隙間に見えた。
「あいつらは?」
大木の陰に隠れながら、俺は小声でヴィートに尋ねた。
「傭兵、黒鷲ジルドと呼ばれる奴だ。 ――俺が元いた傭兵隊の指揮官だっ
た。 挑発に乗るな。 俺たちがやらなければならないことは、一分一秒でも
長く奴らをこの森に釘付けにして、皆が逃げる時間を稼ぐことだ。 それを
忘れるな」
言葉とは裏腹に、ヴィートは怒りで歯をくいしばり、今にも歯ぎしりの
音が聞こえてきそうだった。
勝手の分からない森の中に入り込んだ敵を待ち伏せて銃で射殺、素早
く場所を移動する。 森の中を知り尽くしているからこそ可能な戦法だった。
しかし、村や農場に火が掛けられ、その煙が森の中に流れ込んでいた。 そ
れに身を隠すかのように、敵兵が侵入してくる。 一瞬、途切れた煙の合間
に、突然、敵兵の姿が現れ、こっちが不意を突かれて攻撃することもままな
らず、徐々に森の奥へと押されていくしかなかった。
焼き落とした橋付近で、巧妙に隠されたバリケードの中に入り込み、銃
を構えた。 橋は焼き落としたが、もう少し先に行けば対岸に渡れる場所も
ある。 もう、これ以上は後ろに下がれない所まで来ていた。
が、その時、不吉な轟音が連続して聞こえてきた。
あの音は一体――
「大砲の音だ」 ヴィートが言った。 「一体、何を撃っているんだ? まさ
か……」
「大変だ!」 仲間が谷の方から戻ってきた。 「奴ら、避難民に砲撃してい
る。 もう列の動きが止まってる。 このままじゃ皆殺しにされるぞ」
腹に響くような砲声が一発、そしてまた一発響いた。
――アンナたちが砲撃に曝されている!
湧き上がる怒りで目の眩む思いかした。 怒りで砲撃の音も、ヴィートの
声も何も聞こえなくなった。
老人や女子供に砲撃だと?
何の抵抗もできない者たちに向かって、その卑怯な行いは何だ!
それがキリスト教徒のすることか!
許さない、絶対に許さない。