本ブログをご訪問いただき、ありがとうございます。
第2章、第5節 は、4月20日に投稿します。
なお、関連記事として、今週 、
「図像で見る清教徒革命」
「ジョン・ミルトンの失楽園」
を投稿します。
お時間のある時、お立ち寄りいただけると幸いです。
( 全体の目次はこちら(本サイト)からご覧いただけます
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(第一章の最初から読む
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第2章 「ヨーロッパ1655 」
4. ジョン・ミルトン
ああ、喜びが永久に住んでいる幸多き天国よ、さらばだ!
祝福あれ、もろもろの恐ろしきものの上に!
祝福あれ、この奈落の上に!
汝、無限地獄よ、今こそ、汝の新しい主を迎えよ!
( 平井正穂訳 「失楽園」より )
深夜、心の中に沸々と浮かぶ詩篇の断片を反芻していると、護国卿クロム
ウェルがひと時の休息を取っている隣室から、苦しそうな呻き、床や椅子の
軋み、荒い息遣いが微かに伝わってきた。 また悪い夢を見ているのだろう。
気の毒に。
両目が光を失ってからというもの、音には非常に敏感になった。
国王派は私の失明を天罰だと言って笑う。 が、言わせておけば良い。 失明
ぐらいがどうだというのだ。 そんなものは惨めでも何でもない。 私が失明に
耐えられなくなった時こそ、好きなだけ笑うがいい。 私の心の中にある平安
を、彼らは決して理解することはないだろうが。
クロムウェル士の秘書官となって以来、私はこれまでペンを使って力の限
り革命を支持してきたが、思えば最初の衝動と理想に突き動かされていた時
代は幸せだった。 しかし、今や国王を失った英国議会は堕落と対立で分解寸
前だ。 事態は混迷を極め、この革命がどこに行こうとしているのか、どのよ
うに決着が付くのか、もはや誰にも分からない。 私たちが目指した千年の至
福はどこいってしまったのだろう。 平和どころか、革命を守らんがために、
戦争に次ぐ戦争となってしまった。 アイルランドで、そしてスコットランド
で、どれほどの血が流されたことだろう。 しかし、もう後戻りはできない。
カトリック教徒たちもこのまま黙っていることはあるまい。 教皇を失った
今、大陸で再び新教徒と旧教徒の争いが再び起こるかもしれない。 それは必
ずや清教徒革命に対する報復の意味を帯びることになるだろう。 その時、我
々はどうすべきなのだろう。
今もチャールズ一世の妻ヘンリエッタとその息子チャールズ二世は、フラ
ンスにあって虎視眈々と王権に返り咲くのを狙っている。 そして、ここイン
グランドでは民衆の心は革命から離反しつつある。
後の世の人々はクロムウェル士をどのように評価するのだろう。
英国を前進させた偉大な指導者となるのか、
それとも血も涙もない独裁者というのだろうか。