かじかんで痛む指先から目をそらし、ごわごわしたカバーをまくりあげると、
久方振りの相棒が、夕日を受けて輝いていた。

尻の形で形状記憶されたシートに跨がると、長く乗っていなかった違和感など吹き飛ぶ。

エンジンは少し寝ぼけていた模様。

ちょっとほっときすぎちゃったな。


安定してきたところで氷のようなハンドルを握りアクセルを開いてみた。

腹の下から、Vツインの振動が。

の、野太い…!

ステレオで聞こえる相棒の力強い鼓動。

ふかす。ふかす。近所迷惑なんて何のその。
何度もふかす。

かっ………こいい…!

こんなにカッコいいものに乗っていたんだ!
こんなにカッコよかったんだ!

走りたい!遠くへ…!


バイクが好きという名札は常に着けていたけど、実感が遠くなっていた。

余裕も無く冬を耐えてる。

春、バイクのエンジンをかけると毎年覚醒する。

私はバイク乗りで、旅人です。

それは確かな自己認識。