さわやかに目覚めて朝風呂をいただくと、こんな贅沢が許されるものなのかと少々罪悪感を感じるもので…。
おにぎりを一つ食べて腹ごしらえしたら、相棒に跨りついに白神山地へ向かう。
朝に少し雨が降っていて、天気予報は曇りだったけど、雲の切れ間に青空が見えていた。
静かな里山を過ぎ津軽白神湖の淵を走り抜ける。
通り過ぎる風、その向こうにエンジン音、聞こえるのはこれだけ。
なんて気持ちがいいの。
湖を過ぎると急に峠道になった。
しっとり水を含んだ落ち葉が広がっているためとても怖かったけど、
深まる森に洗礼を受けているような素晴らしい予感が湧き上がってきた。
アクアグリーンビレッジANMONは立派な施設で、温泉の他観光案内所やお食事処などもあった。
人も多くて何となく安心した。
だけど世界遺産行きのバスに乗るのは、私と男性の二人だけだった。
乗る時に運転手のおじちゃんに、帰りもバスに乗るか確認された。
乗ると言っていて来なければ何かあった合図になるから。
私はまだ悩んでいた。
バスの終点「津軽峠」に着いて、また出発するまでたった20分。
マザーツリーまでは徒歩5分だから見て戻ってくることはで出来る。
でも次のバスは約2時間後。
昨日までは津軽峠から行く散策路を周って、2時間後に乗ろうと思っていたのだけど、台風の影響で閉鎖中になってしまっていた。
ゆっくりもしたいけど、さっさと帰って来て他の散策路回った方がいいのか…。
同乗している男性「歩いて帰ります(きっぱり)」
そう、実はもう一つ道がある。
山の中を歩く散策路が。
しかしビジターセンターのお嬢さんに「けっこうきついです。5時間かかります」と聞いていたため、山歩きに慣れていない私は選択肢から外していた。
運転手のおじちゃん「歩くのかなりきついよ、乗って帰れば?」
私「そうします。」
そうしてバスは発進したのでした。
バイクで来なくて心底良かったと思うガタガタ道。
バスの設備がブルブル震えてて、分解しちゃうんじゃないかと心配になるほどだった。
しかも先の見えないブラインドカーブが続く。
恐るべし道を進んでいたが、登るごとに日差しが届き、滲みるような青空が広がってきた。
急に景色が開けたら、山と同じ目線になってた!
高い高い!
見渡す限り山が連なってる!
運転手のおじちゃんがバスを停めてこの景色を堪能させてくれた。
余談だけど、グリーンビレッジの一角に暗門の竜神様が祀ってあった。
山に入るからとご挨拶させてもらったのだけど、何となく竜神様の計らいなのでは…?と天気予報を覆すこの晴天を見てふっと思ったのでした。
舌噛みそうな道を進んで、案外すぐに津軽峠に着いた。
何台か自家用車が止まってる。
すぐ戻ってくるつもりでマザーツリーまで向かうと、車の持ち主と思われる親子連れが戻ってきたところだった。
とても残念そうな悲しそうな表情で「マザーツリー折れちゃったみたいです…」と教えてくれた。
聞いてはいたけど、その悲しそうな表情を見るとよっぽど様変わりしてしまったんだろうかと心配になった。
極上の木漏れ日の中、整備された散策路を進む。
散策路の周りにもブナの大木が乱立してる。
ブナの木は不思議。纏っている空気が瑞々しくてどこか清浄。
ほどなく、立ち入り禁止の黄色のテープが見えてきた。
その後ろに、たとえ折れていても一目でそれと分かる圧倒的な存在感を放っていたマザーツリー。
手前の倒木が、折れたマザーツリーの枝先。
本当に折れてしまったんだ…。
衝撃的な折れ方だったけど、手を広げるように伸び伸びと枝を伸ばした樹影にもの悲しさはなかった。
ただ美しかった。
400年と言われるこの木の年齢を肌で感じる、瘤を含んでうねるような幹。
樹肌を覆うように広がる苔。
残った枝にはまだ張りのある葉が茂っている。
説明の看板にされていた張り紙には、やはり白神山地のブナの森に対する愛情を感じた。
眩しい日差しのシャワーを浴びていると、このまますぐに帰るのがもったいなくなってきた。
散策路を戻っていたら、バスで一緒になった男性が歩いてきた。
思わず、と言うかもう無意識の様に話しかけていた。
「もしご迷惑でなければ、一緒に歩かせてもらえませんか?」
この男性Mさんは快諾してくださって、グリーンビレッジまで共に行動することになった。