夜は非常に冷え込み、5月なのに息が白かった。
持てる最大の防寒をしてシュラフに潜り込んだが、それでも寒くて眠りが浅かった。
雨も本格的に降り出していた。
けれど久しぶりのキャンプ場での目覚めは清々しいものだった。
ごそごそと起きだし、朝食素麺を食べたら、朝のコーヒータイム。
お気に入りのケトルで入れたコーヒーは格別。
この時間、最高の贅沢だわ。
今日は午前中は雨がひどい予報だし、ちょっとゆっくり出発しよう。
テントでゴロゴロ。
そしたら空もゴロゴロ。
強まる雨脚。
だけど新しいテントの防水は素晴らしくて、安心。
雨が玉になってフライシートを駆け下りていた。
雷が通り過ぎると一気に空が明るくなった。
何と青空まで見えだしてる。
今だ!
急いで撤収。
バイクに積み終わるころにはまた小雨が降り出していたけど、この程度ならへっちゃら。
出発しよう。
新緑の美しいキャンプ場に別れを告げて、私は歩を進めた。
向かうは南。
雨は降っているものの、今日はなんだか調子がいい。
相棒との一体感を感じる。
気持ちがいい。気持ちがいい…!
いつも出発時に雨だから私の感覚がこの雨で追いついたのだろうか。
目の前に広がる若草色が眩しいくらいだ。
眩しい。眩し………?
あれ、何だか急に暗い。目の錯覚かな。
いや、本当に暗い。
背中がゾワゾワする。
まずい…!
すぐさま道の駅白鷹ヤナ公園に入った。
どこにバイクを停めようかと少し迷った瞬間、
ピカッ!!ゴゴーーーン!!
ドザーーーーー!!!
やっぱり来たーーーー!!
あの異常な暗さは、雷の前兆だったのだ。
車の脇にバイクを停めて屋根の下に駆け込む。
ああ、相棒がぁ…
無残に雨に打たれる相棒。
銀マットがびしゃびしゃだよう。
およそ15分くらいで雷雲は去った模様だったので、走り出した。
が、今度は異常に空が明るくなって、龍が唸っているみたいに雷鳴が鳴り響く。
雷が怖すぎて、進んでは避難を繰り返してたがさっぱり進まないからもう何だかどうでもよくなってきた。
行ってしまえ!
豪雨も雷鳴も、待てども過ぎてもまた来るもの。
やけくそになって走り続けた。
グローブも靴も、これ以上水が吸えないくらいに雨を含んでちゃぷちゃぷしてる。
でもいいんだ。昼過ぎになれば雨止むし、明日は天気だ!
天気予報にすべてを託して走ってたのに、どこまで行っても雷鳴は止まない。
もしかして私の進行方向が雷に向かっているのだろうか…。
ひと際雨が強くなった時、私はついにめげた。
ところが、さっきまでコンビニとかたくさんあったのに、今になって周辺に避難できる場所が見つからない。
雨に叩かれ半泣きで進むと「カラオケ」と書かれた看板を見つけたので滑り込んだ。
幸いにも屋根付きの駐輪場があったので雨宿りさせてもらうことにした。
ずっしりしたグローブと、水槽と化した靴を脱ぐ。
革ってこんなに水分って含めるんだね~…
無駄なあがきと知りつつも靴下を変えてみようと、防水カバーをよけてバックパックを空けた。
濡れてる…。
キャンプにおいて、私が最悪と思うのはシュラフが濡れる事。
今現在起こっております。
鳴り響く雷、いつまで待っても止まない雨。冷えた体。濡れたシュラフ。もはや絶望。
もう一歩も動きたくない。
というか、動けない。
次から次へと雷雲が訪れて足止め。
お昼はとっくに過ぎたのに…。
もしかして、出発時雨降らなかったツケが今まとめてきているのか?
そんなにも私は雨女なのか?
多分今、正常な判断は一つもできない。
ただ、これだけは言える。
私、これまでのバイク人生の中で今一番ひどい雨に会っている…!
半ば呆然と雨宿りをしていたが、ようやく雨が安定して弱まってきた。
行くしかない。
濡れに濡れたグローブと靴を装着。最高に気持ち悪い。
けれど、うっすら見えだした太陽に照らされて、匂い立つような若草色の山々が美しかった。
雨はまだ止まなくても、太陽の明るさを感じられるようになりほっとした。
青看板に従い喜多方市街地に入る。
体中が凍えて固まってしまってる。
こんな時には、そう、ラーメンです。
市内はいくつもラーメン屋があって迷ったけど、とてもいい匂いを漂わせているお店があったのでそこに決めた。
腹ごしらえして体温を上げよう。
「喜多方ラーメン」を頼もうとしたんだけどメニューに書いてない。
どうやら、メニューにあるすべてのラーメンが「喜多方ラーメン」仕様らしい。
一瞬悩んだけれど、やはりここはチャーシューメンでしょう!
湯気がもう、天国への扉です。
チャーシューもトロトロだし、食べ応えのある太麺が堪らない。
まさに英気をいただいて大満足。
気持ちも少し楽になった。
よし!では進もう!