去年沖縄で遊んだ、幼なじみで東京住まいのナオミちゃんから、宅配便が届いた。
中を開けたら、それは綺麗に折られた千羽鶴。
見事…。
彼女のきっちりした性格で、父の回復を祈る気持ちをぎゅうぎゅうに織り込んだ神々しさすら纏う品だった。
同封された手紙には、「何も出来ないけど」って書かれてたけど、そんな事ない。
同じ様に「何も出来ないけど」って言いながら、「私の事は振り回していいから」と言って、
ミサトちゃんは本当に振り回させてくれた。
「何も出来ない」なんて嘘だ。
この二人だけじゃない。
こんなにも助けられてる。
千羽鶴を早く父に見せたかった。
今日も調子が悪いらしい父に、ナオミちゃんの気持ちを届けたかった。
今日からまた病室が変わり、二人部屋になった父は、仰々しい酸素マスクを着けて、真っ白い顔をしていた。
熱は無かったけど、ガスが溜まったらしく腹痛になってた。
それより、酸素マスクが、目立つ。
赤血球が足りないから酸素が運ばれにくいというだけでなく、色々理由があるようだ。
お話をしていたら、昨日から出張だった主治医の先生が来てくれた。
安心する。
触診や問診をして、色々話してくれた。
右の肺に、影があると。
強い抗生剤を2種類打つと。
人口呼吸器も考えてると。
「写真見ますか?」とナースセンターの中へ案内された。
父は動けないから、家族だけで見た。
たった二日前には無かった影。
「これが白血病です。」
たった二日で、極端に病状が変わる。
しかも生死に関わる。
父は、肺炎に感染してた。
体中のたくさんの数値を見た。
丁寧に一つずつ説明してくれた。
抗がん剤は効いてる。
けど、カラにした骨髄からまだ何も出てこない。
少し遅いと。
そして、もし正常な細胞ではなく、白血病細胞が増えてしまったら、
「これ以上がんばらせるのは酷かもしれません。」
そうなったらまたその時、相談するのだとか。
相談て、何の?
そして人口呼吸器の『意味』。
一度着けたら外せない。
治るか、「脳死」かしないと。
父くらいの年齢だと、「厳しい戦い。だけどゼロじゃない。」
今視野に入れているのは、どうなるかも(寛解するか)分からないから、それまでは出来うる全てをするから。
お医者さんは最悪の事しか言わない。
でも先生は、とても慎重に言葉を選んでいた。
私たちの受けるショックを少しでも軽くしようとしてるのが分かった。
たくさん話してくれた。
強い目で、私たちを見据えて。
私たちは、みんな泣きそうなのを必死に堪えて話しを聞いた。
たくさん話してくれた。
何から何まで。
私たちは理解しなきゃならなかった。
「入院してから、今が一番危険な状態です。」
肺炎に重ね、腹水が貯まっている。
持病の狭心症もある。
「懸念されるのは、肺炎による心不全。
急変の恐れがあります。」
理解しなきゃならなかった。
今がいかに危険な状態かを。
ただ、一筋、希望の光。
腎臓、肝臓の数値が正常なのだ。
だからこそ強い抗生剤を使える。
感染と戦える。
父の体は、いつも最後は裏切らない。
東京のおばちゃんの言葉が頭を過ぎる。
「生命力が強いから大丈夫よ。」
まさにこれが!父を生かす力だ。
随分と時間が経っていた。
私は仕事の時間が過ぎていたけど、いち早く事情を知る上司に連絡してたから良かった。
問題は父だ。
ここまで、全て父にはオフレコだ。
すると先生が、
「遅かったなと言われたら、パソコンが起動しなかったといえばいいから。」
とサラリと言った。
赤い目を隠しながら病室に戻ると、輸血と点滴の始まってた父がまさに
「随分遅かったな」と言う。
先生ありがとう。
「何かパソコンがうまく起動しなくてさー。
先生ちゃんと使えてるのか?」
先生ごめん。
父は少し納得行かないようだったから、重ねた。
「肝臓と腎臓の数値、正常だってさ!」
ケラケラ笑いながら見た姉が赤い目をしてた。
だから、とっさに返事できなかったんだね。
トイレに寄って戻ってきた母も目が赤かった。
もしや私も…?
いやいい!
それでも目を見ないと、しゃべらないと父が不安になる!
すぐに出勤しなきゃならなかったから、笑顔で手を振り、病室を出た。
ベッドの枕元には、ナオミちゃんからの千羽鶴。
申し訳なさそうな、何とも言えない複雑な表情で千羽鶴を受け取って、
結局嬉しそうな様子が救い上げる。
逃げ道のとことん見つからないこの長い道を歩く私たちの旅路を。
奇跡を産む力の所在は、確かにここに。
中を開けたら、それは綺麗に折られた千羽鶴。
見事…。
彼女のきっちりした性格で、父の回復を祈る気持ちをぎゅうぎゅうに織り込んだ神々しさすら纏う品だった。
同封された手紙には、「何も出来ないけど」って書かれてたけど、そんな事ない。
同じ様に「何も出来ないけど」って言いながら、「私の事は振り回していいから」と言って、
ミサトちゃんは本当に振り回させてくれた。
「何も出来ない」なんて嘘だ。
この二人だけじゃない。
こんなにも助けられてる。
千羽鶴を早く父に見せたかった。
今日も調子が悪いらしい父に、ナオミちゃんの気持ちを届けたかった。
今日からまた病室が変わり、二人部屋になった父は、仰々しい酸素マスクを着けて、真っ白い顔をしていた。
熱は無かったけど、ガスが溜まったらしく腹痛になってた。
それより、酸素マスクが、目立つ。
赤血球が足りないから酸素が運ばれにくいというだけでなく、色々理由があるようだ。
お話をしていたら、昨日から出張だった主治医の先生が来てくれた。
安心する。
触診や問診をして、色々話してくれた。
右の肺に、影があると。
強い抗生剤を2種類打つと。
人口呼吸器も考えてると。
「写真見ますか?」とナースセンターの中へ案内された。
父は動けないから、家族だけで見た。
たった二日前には無かった影。
「これが白血病です。」
たった二日で、極端に病状が変わる。
しかも生死に関わる。
父は、肺炎に感染してた。
体中のたくさんの数値を見た。
丁寧に一つずつ説明してくれた。
抗がん剤は効いてる。
けど、カラにした骨髄からまだ何も出てこない。
少し遅いと。
そして、もし正常な細胞ではなく、白血病細胞が増えてしまったら、
「これ以上がんばらせるのは酷かもしれません。」
そうなったらまたその時、相談するのだとか。
相談て、何の?
そして人口呼吸器の『意味』。
一度着けたら外せない。
治るか、「脳死」かしないと。
父くらいの年齢だと、「厳しい戦い。だけどゼロじゃない。」
今視野に入れているのは、どうなるかも(寛解するか)分からないから、それまでは出来うる全てをするから。
お医者さんは最悪の事しか言わない。
でも先生は、とても慎重に言葉を選んでいた。
私たちの受けるショックを少しでも軽くしようとしてるのが分かった。
たくさん話してくれた。
強い目で、私たちを見据えて。
私たちは、みんな泣きそうなのを必死に堪えて話しを聞いた。
たくさん話してくれた。
何から何まで。
私たちは理解しなきゃならなかった。
「入院してから、今が一番危険な状態です。」
肺炎に重ね、腹水が貯まっている。
持病の狭心症もある。
「懸念されるのは、肺炎による心不全。
急変の恐れがあります。」
理解しなきゃならなかった。
今がいかに危険な状態かを。
ただ、一筋、希望の光。
腎臓、肝臓の数値が正常なのだ。
だからこそ強い抗生剤を使える。
感染と戦える。
父の体は、いつも最後は裏切らない。
東京のおばちゃんの言葉が頭を過ぎる。
「生命力が強いから大丈夫よ。」
まさにこれが!父を生かす力だ。
随分と時間が経っていた。
私は仕事の時間が過ぎていたけど、いち早く事情を知る上司に連絡してたから良かった。
問題は父だ。
ここまで、全て父にはオフレコだ。
すると先生が、
「遅かったなと言われたら、パソコンが起動しなかったといえばいいから。」
とサラリと言った。
赤い目を隠しながら病室に戻ると、輸血と点滴の始まってた父がまさに
「随分遅かったな」と言う。
先生ありがとう。
「何かパソコンがうまく起動しなくてさー。
先生ちゃんと使えてるのか?」
先生ごめん。
父は少し納得行かないようだったから、重ねた。
「肝臓と腎臓の数値、正常だってさ!」
ケラケラ笑いながら見た姉が赤い目をしてた。
だから、とっさに返事できなかったんだね。
トイレに寄って戻ってきた母も目が赤かった。
もしや私も…?
いやいい!
それでも目を見ないと、しゃべらないと父が不安になる!
すぐに出勤しなきゃならなかったから、笑顔で手を振り、病室を出た。
ベッドの枕元には、ナオミちゃんからの千羽鶴。
申し訳なさそうな、何とも言えない複雑な表情で千羽鶴を受け取って、
結局嬉しそうな様子が救い上げる。
逃げ道のとことん見つからないこの長い道を歩く私たちの旅路を。
奇跡を産む力の所在は、確かにここに。