女の子はとってもお腹が空いています。

「食べたいよう、食べたいよう」

といつも思っていました。

甘くて柔らかいものが食べたかったのですが、

目の前にあるのは、苦かったり、固い殻に包まれていたりしてとっても食べにくいものばかりが少しだけ。

仕方なく口をつけますが、やっぱり残してしまいます。

「甘くて柔らかいものが食べたいよう」

女の子は以前、甘くて柔らかいものばかりを食べていましたから、
今更苦くて固いものは食べたくありません。

けれど今は、甘くて柔らかいものはなかなか見つかりませんでした。

「前はあんなにあったのに…」

女の子は泣きたくなりました。

お腹は空く一方です。

そんな時、とても甘そうな果実を見つけました。

女の子は喜んで、無我夢中で食べました。

「甘い甘い、柔らかい柔らかい」

夢中で食べていくうちに、お腹が痛くなってきました。

「おかしいなあ…」

ふと気づくと、あんなに甘そうだった果実は、真っ黒でガチガチの石ころに変わっているではありませんか。

びっくりして食べるのを止めましたが、もう半分以上食べてしまっていました。

女の子はしばらくお腹の痛みに堪えなければなりませんでした。

「なぜこんな事に…」

お腹の痛みに堪えながら考えてみましたら、

あまりの空腹に目が眩んで、石ころが果実に見えていたのだと気づきました。

「もう惑わされないようにしなくては。」

しばらくすると、お腹の痛みも治まりましたが、それと同時にまたお腹が空いてきます。

けれど、甘くて柔らかいものはありません。

他人のお皿の上のものが欲しくなりましたが、さすがにそれは食べられません。

そうです。

女の子は、苦くて固いものを食べるしかないのです。

よく考えたら、今までの甘くて柔らかいものも、
全てが甘くて柔らかかった訳ではありませんでした。

しかし食べたくないところは残して、おいしいところだけを食べていたのです。

「きっとバチが当たったんだ」

女の子は、我慢して苦くて固いものを食べました。

お腹が空いて死んでしまうよりは、おいしくなくても食べるしかないのです。

女の子は悲しみました。

「苦いよう、固いよう」

けれど、それも自分の撒いた種だと思って、頑張って食べるしかありませんでした。






しかし、女の子はまだ知らないのです。

固い殻の中には、柔らかい部分が隠れている事。

苦い果実も、種の周りは甘いという事。

それが本当に、空腹を満たしてくれる、『幸せ』の果実だという事は、

もう少し、苦くて固いものをがんばって食べなければならないので、まだ内緒なのです。