[Data]
名前 キャリー
犬種 ポインター
性別 女の子
年齢 8歳
特徴(外見) 白に焦げ茶色のブチ 長いしっぽ ガリガリ
(性格)天真爛漫 天然系変わり者 甘えっ子 極度の少食…
5日ほど前から、外で飼ってるキャリーが夜中に鳴いている。
まるで悲痛に鳴くから、数日キャリーの声とは気付かなかった。
盛岡の冷え込みは恐ろしい。
寒がりのキャリーは、きっとすごく寒くて鳴いてるんだ。
夜中中鳴いてるからあの子きっとほとんど寝てない。
2日前、休日だったので小屋に細工を施した。
寝床用の小屋にエアパッキンを巻き、段ボールで包む。
続きになってる檻の部屋には、すでに父が風よけの板を側面に張っていたが、出入口の部分と板の隙間にも透明な厚手のビニールシートを貼付けた。
寝床には藁がたんまり入っているし、これで大分暖かいはず。
けれどキャリーはその日もずっと鳴いていた。
どうやら檻の部屋の板で囲われているのが怖いらしかった。
1日様子をみたけど、やっぱり夜に鳴く。
父と相談して明日板を外してみようと言う事になった。
父が寝る前にキャリーを触って落ち着かせた。
みんなが寝静まった夜中、また鳴き出したから、様子を見に行ったら、檻の部屋に出て落ち着かない様子だった。
私が声をかけながら近寄ると、「触って」とばかりに檻に顔を擦り付けた。
なるべく風が入らないようにビニールシートと檻の隙間から手を差し入れ、頭や顔を撫でた。
寒いだけじゃなくて、何か不安で鳴いているなら、触って声をかけてあげるのが一番だ。
しっぽが立ってて何となく安心した様子が見れたから、私も部屋に戻った。
部屋にもキャリーの声が届くから、また鳴き出したキャリーに部屋から声をかけていた。
今日。
今日は最悪な一言から始まった。
母「キャリーが、死んじゃった…」
まだ寝ていた私は飛び起きた。
真っ直ぐに小屋へ向かう時にすれ違った母が泣いてた。
小屋にはキャリーは居なくて、衣装ケースが置いてあった。
開けようとしたけど開けれなかった。
雪が、降っていた。
しばらくすると姉が帰って来て、小屋の前で立ち尽くしていた。
どうして、何で、、
と母に問う。
「今朝、立ち上がれなくなってて、病院に連れていく途中で、息絶えた」のだと言う。
父に衣装ケースを開けて貰った。
キャリーをくれた知り合いのブリーダーさんの火葬場が準備できるまでしばらくかかるからと、ビニール袋に包まれて、動かないキャリーが入っていた。
動かない。
冷たい。
動かない。動かない。動かない。
動かない。
頭を撫でたら、感触はキャリーそのものなのに、もうキャリーはいない。
ただ悲しかった。
「ごめんね」とか「もっとこうすれば良かった」とか、何も思い浮かばず、ただ悲しかった。
悲しいしか私には無かった。
涙が止まらなくて、泣き腫らした目で仕事に向かった。
時が経つほど、死んだなんて夢か嘘で、帰ったらまた甘えた声で鳴くんじゃないかと逃避したくなったが、
冷たくなって動かないキャリーの姿が瞼に浮かんで、そんな幻想すら見れなかった。
仕事から帰って来て、キャリーがもう居ないことを痛感する。
日本一周から帰って来て、「ただいま」が重たくて言え無かった時、帰宅した事を実感させてくれたのがキャリーだった。
私の部屋が犬小屋に一番近いから、いつも感じてた気配が、静寂になっている事に嫌でも気付く。
木切れを投げると、異様に喜んで興奮してた姿と、
今日見た姿が交互に浮かぶ。
何故か常に死を感じさせる子ではあったけど、明日も明後日も来年も再来年までは、甘ったれた声を出して「触って、遊んで」って、
しっぽ振りすぎて何かにぶつけて血を出しながらおねだりされるものだと、夕べまでは思ってたんだよ。
キャリー。
その名前が、今は悲しい。
火葬場の支度が出来るまで数日かかるから、キャリーの亡きがらに魔よけの刀を置きに小屋へ行くと、
どこから入ったのか雀が藁で暖を取っていた。
キャリーの事は暖めきれなかった藁も、雪の中飛ぶ雀達には十分なんだろう。
せめてもう動かなくなってしまわぬように、私は追い払わずに、静かに小屋を閉めた。