「正気でない」特質を持つ老人が、正気でない通貨に独言る話

 

 

昨日、ドル円が160円を超え38年振り水準となった。別記事で書いた通り、為替介入は出来ないだろうから、行きつ戻りつはあれど一段の円安が進むと予想する。

 

正気でない老人は「7月3日に新札に替えてもらって、家に帰って財布を開けて見てみたら、きっと葉っぱになっているだろう」と独言るしか出来ることはない。

 

かねがね「急激な為替変動は望ましくない」という財務大臣や財務官のコメントは気になっていた。金融経済の世界では、この発言を「緩やかな円安は容認する」と理解しなければならない。即ち、円安は国策ということだ。

 

欧米が一時的な痛み(物価高)に耐えて通貨と国富を守ったのに対して、日本は通貨と国富を捨てる政策に打って出た訳だ。正気でない老人から見ても正気でない政策としか思えない。いつの日か、アルゼンチンのように自国通貨を捨てるのかと正気を失い、葉っぱを連想した訳だ。

 

円安はプラスという経済学者の方もいらっしゃる。それ自体は間違いではない。1ドル300円くらいになれば、家計と国内経済は一時的に壊滅的状況になるが、対外収支等によって名目GDPが上昇するというのは理屈として理解できる。

 

しかし、それは言い方を換えれば通貨危機の副作用ということだ。

 

更に注意が必要なのは、GDPは各国の経済活動を表す手法の一つでしかなく、世界中どの国でも同じ指標で評価するために作られた方法論で、一般庶民が体感できる景気とは異次元の世界にある、雑駁に言えばIMFや世銀のための管理指標だ。そもそも名目GDPはドルに換算して評価するから固定相場制や管理相場制を取っている一部の国の数値について揉めることも多い。抜かれただの順位が下がっただのと大騒ぎする話でもない。

 

独言はさておき、どこで通貨政策を誤ったのかは、

短期的な値動きではなく中長期トレンドを見る必要がある

 

主要23通貨について、(1)コロナショック直後の2020年3月末、(2)米国が利上げを開始した2022年3月末、(3)2024年の年初、と昨日NY時間(日本時間今朝)の終値とを比較した。

数字はBloombergのサイトから手で拾ったもの。手元の怪しい老人の作業な上、精緻に計算していないので、あくまでも概算だと思って見ていただきたい。

 

  • 今年の年初来変動率を見ると、欧米主要通貨だけでなく、東南アジア諸国通貨にも全敗、平均すると年初来6ヶ月間で約8%の円安
  • 米国が利上げを開始した2022年3月からの約2年間で見ると、主要7通貨+東南アジア9通貨は大凡CAGR(Continuous Annual Growth Rate: 年平均上昇率)約8%の円安
  • コロナショック直後(2020年3月末)からの約4年間で見るとCAGR約7%の円安

 

この4年間で日本以上に通貨が下落したのは、トルコ、アルゼンチンの2カ国だけ。この2カ国も今年の年初来ではほぼ互角。つまり円は今年に入って世界最弱通貨になったということだ(注:この表はにない経済規模の小さい国の通貨を除く)

 

また、年を追うごとに円安が加速していることが窺える。即ち、円安はすぐには止まらないということだ。トルコ、アルゼンチンの通貨安も最初は緩やかに進行したが徐々に加速していった。

 

トルコもアルゼンチンも、その金融・通貨政策は非常識なものだとエコノミストから批判されてきた。日本の金融政策を表立って批判する声は少ないが、市場は同列と見ているということだ。

 

もはや個人レベルで出来ることは多くない。金融・通貨政策単独で出来ることも多くない。複数年に渡る痛みに耐え、復興の努力を積み上げるしかない。

 

そういえば、1997-98年のアジア通貨危機の直後に、その発端となったタイに行った時のことを朧げながら思い出してきた。街全体に吹っ切れた感があり、混沌と退廃と活気が混在していた。なんとなく、これは(回復は)早いな、と感じた。

 

 

「ジンバブ円」と仰っている方が既におられるので、正気でない老人は「きし狸の葉っぱ」と念仏のように繰り返し独言ることにする。

 

(了)