22th. 定禅寺st.ジャズフェスティバル!!
9月9日、仙台は定禅寺st.ジャズフェスティバル。東北最大の音楽の祭典2日目は、長く続いた猛暑の名残から好天に恵まれた。高速道路を仙台宮城ICで下り、旧48号作並街道で市街地を迂回。北四番丁を右折して勾当台通りを南下すると、間もなく勾当台公園。祭の中心に近づくに連れて徐々に人出が増え、準備に忙しいそれぞれの会場の風景が目に入ってきた。 公園北側の十字路を左に折れて、予定通り10時過ぎには県庁の駐車場に到着。しかしあろうことか生憎の満車。例年なら、楽々駐車できたはずなのに、今年の出足は驚くほど早い。ゲート前に集まった車が、北から南から向かい合う形で路上待機になってしまった。ようやく駐車できたのはそれからおよそ30分後。『待てば海路の日和あり』ってことか。ありがたや~。 さて、次の問題は午後一番のHeart Of Stealのステージ観覧。場所は駅東の彼方、榴岡公園。ここからは推定3キロの道のり。仙台駅まで歩いて仙石線に乗ったとしても、うなぎ登りに上がる気温の下、なかなかハードな遠足になる。 ひと先ずステージの受付を済ませるために滝前に向かう。東側から公園に入り、野外音楽堂を横目に階段を下りると、大きな石垣の前に広いステージ。口開けのTK&The Blues Blastersが今正に演奏を始めようとするところだった。彼らは滝前の常連。キレの良いリズムで畳みかける凄腕のブルース・バンド。イケメンのボーカル&ハープに格好良いスーツ姿のメンバー、そこにギタリストTAD三浦が参加している。三浦さん、ますます体格が良くなって、どう見ても暑くて辛そうなのに、ジャケットを羽織って気丈に舞台に立っている。ブルースの伝道師はまだまだ健在らしい。くれぐれもお体に気をつけて・・・。 袖にあるテントの下ではいつものようにHEAVENのK馬くんが案内にあたっていた。懐かしい笑顔、互いの元気な姿を確かめて握手を交わす。TK…の勇姿をもっと拝みたいところだったけれど、残念ながら時間がない。そのまま駅に向って南側の出口に向かう。 そこで名物男のSONさんを発見。バスの運転手と話し込んでいる姿は、トレードマークの黒いスーツ、黒い帽子、黒いネクタイ、黒いサングラスの出で立ち。そう彼こそThe Blues Brothersを彷彿とさせる福島の雄シュガーケン&ビタースウィーツのMCだ。うだるような暑さの中、安達のジョン・べルーシよ頑張れ! そうして僕たちは、勾当台通りを南に下り、広瀬通りを東、愛宕上杉通りで南に折れる。「足痛~い。靴擦れしたぁ~。」ここに来てCharlyが訴え始めた。どうやら衣装に合わせて新調した靴が災いしたらしい。早速コンビニで絆創膏を買って応急処置を施す。彼女は気を遣って「大丈夫!」と宣言したが、実のところ大分辛そうだった。 そこから青葉通りに出て駅前の地下道を抜け、S-PALの飲食店街の突き当たり。牛タンの喜助に到着。ここは十数年前、二十歳そこそこのCharlyと遊びに来て訪れたお店。当時僕は40を過ぎた頃だったから、後に結婚するなんて事は夢にも思わなかった・・・。 ちょうどお昼時で、入り口から人の列が連なっていた。待つこと20分程。ようやく昼ご飯にありつけた。皆が定番の牛タン定食の塩味を注文する中、僕は味噌味、そしてストーブY成くんはなんとタンシチューをオーダーした。これがなかなかのものだったらしく、肉はトロリと軟らかく、ソースにはこくのある深~いダシが利いていたそうな。僕の方の肉も、しっかりと味噌ダレが浸みて程よく柔らかかったが、塩の方は少々硬めだったようで、奥歯治療中のCharlyが四苦八苦しているものだから、途中でお皿を交換してあげた。 さて、お腹を満たせば後はHeart Of Steelのステージに向かうばかり。休日の昼下がりながら、地下街はジャズフェスの観客でごったかえしている。人並みを縫いながら、フロア続きのJR改札を抜けて仙石線へ。ホームは既に列車を待つ人々で混み合っていた。 暫くすると銀色の列車が滑り込んできた。ドアが開くとともに車内に押し込まれ、つり革につかまること2分、ひと駅先の榴ヶ岡に到着。出口から直ぐのところに榴岡公園があった。その広大な敷地の中、ステージは4ヶ所も散在し、お目当ての舞台は東側奥の野外音楽堂。 中央の噴水まで歩いたところで、木陰を見つけてCharlyを休ませる。靴擦れがますますひどくなって彼女は大分参っている様子。額に汗してかかとの絆創膏を張り替える彼女を見ながら、酷な遠足になってしまったと少々後悔した。 「先に行って、挨拶してくるから。」僕が歩き出そうとすると「ちょっとぉ!自分のバッグ もって行ってよぉー。持てないんだからぁー。」と彼女。いよいよ機嫌が悪くなってきた。「はいはい、わかりましたぁ~。」 ようやく辿り着いた先にはお久しぶりのUちゃん、S瓶くんの姿。昨年の僕たちの結婚披露パーティーに駆けつけていただいて以来である。仙台在住のUちゃんは変わらず健在の様子。S瓶くんはなんとバイクで駆けつけたそうな。 舞台袖のテントでは、Heart Of Steelの面々が準備に忙しい。心篤き音楽の雄志達が今正に演奏を始めようとしている。言わずと知れた技巧派集団。さぞかし素晴らしい演奏を聴かせてくれることだろう。中心地から遠く離れた会場にも関わらず、客席には数十人の聴衆がステージ見守っている。 さあ演奏スタート。のっけから小気味よいリズムが繰り出される。練習の甲斐あってかなかなか良い仕上がり。幾度かのライブを重ねて脂が乗ってきたようだ。S葉さんの燻し銀の喉が、ビル・ウィザースやマイケル・フランクスなど、通好みの逸品を丁寧に歌い上げる。そしてY田さんの爪弾くギターが繊細かつ大胆なテクニックを惜しみなく披露する。アッキーとケンケンの力強いリズムセクション、U子ちゃんのソウルテイスト溢れるキーボード、歯切れ良く吹き上げるHiroshiくんのテナー・サックス。更にはKuniちゃんの渾身の一曲『マイ・ライフ』が艶やかな大人の魅力を発して光っている。 観客は音響の良い舞台から放たれる心地よいグルーブにすっかり酔いしれている。その中にはS葉さんの奥様、K子ちゃんやShinpeちゃんの姿もあった。K子ちゃんは愛息を連れて新幹線で駆けつけ、Shinpeちゃんは前日の出番を終えて聞き手に回って楽しんでいた・・・。 帰り足、駅前のみるくどーる榴岡店のステージで偶然にもヴァイオリンのMikaちゃんの演奏に出くわす。Team Comp-というユニット。彼女も粛々と活動し続けていたのだ。終盤、十八番の『情熱大陸』を聴かせて貰って、往年のタンジェリンズを思い起こした。思えば十数年来、音楽を通じてなんらかの関わり合いを持ってきた仲間達が、それぞれのスタイルを貫きながら自分の道を歩んでいる。なんだか胸が熱くなる思いがした。 さて次は、須賀川の『ぷかぷかファミリーバンド』のステージ。以前僕たちも出演経験がある商工会議所前である。再び仙石線で仙台駅、更に地下鉄に乗り換えて勾当台公園へ。到着すると、ちょうどカーペンターズのカバーバンドが爽やかに名曲の数々を披露しているところだった。しかし、次に控えているはずの『ぷかぷか…』のメンバーが誰もいない。仕方がないので暫くその辺りをうろうろしていると、スモークガラスの向こうに一団を発見。エアコンの効いた1階のロビーが控え室になっていて、皆がゆったりくつろいでいるではないか。 「ここは涼しいし、飲み物も買えるし、トイレはあるし応えられないよ~。」とはバンマスのA津さん。相変わらず押しの強いキャラ。同級生のR太くんも健在。他のメンバーと伴に余裕の体でくつろいでいる。 そうこうす間に出番が来た。出陣する5人のメンバー。今回はドラムの代わりに若手のパーカッションが参加。そしてかぶりつきには心強いサポーター。さすが毎度結束の固いぷかぷか軍団なのだった。そしてのっけから、A津節が炸裂。彼がボケればR太も負けじとギターとMCで突っ込みを入れる。そんな掛け合いが自然と会場を和ませる。毎週のライブ修行ですっかり息の合ったやりとり。それがはたして演奏なのか漫才なのか、観客の心を一度掴んだら放さない。そのまま尻上がりにボルテージを高めるA津さんの絶叫、それに引きずられるように熱を帯びる仲間達。フォーク一筋、脱帽です! ここに来て、暑さと疲労でくたくたになってしまった僕たちは、合流したG海老名の友人A部さんと伴に三越裏のSUBWAYに逃げ込んだ。仙台に到着してから既に6時間。普通ならとうに幕引きの頃合いだ。しかしこれからが本番。ハードなスケジュールはまだまだ続く。「緊張し過ぎて気持ち悪くなってきたぁ~。」アイスコーヒーを飲みながらCharlyが呟いた。おいおい、今度はそうきたかい。忙しいなぁ・・・。 小一時間の休息でようやく元気を取り戻しすと、間もなく5時になろうとしていた。さあ気合いを入れて出発だ。野外は大分日が傾き暑さも和らいでいた。駐車場に戻って機材を担ぎ人並みを除けながら滝前に到着。次第に宵闇が迫ってきていた。 ステージはThe Allman Brothers Bandを信奉するSouthbound Blues Trainから、おとくろ本舗なるマッチョなジャグバンドに替わった。銀色の派手なヘルメット姿のユニークな一団は、トランペットとチューバのラッパ隊と、マーチング・バンドさながらの大太鼓、それにブルース・ハープも絡んで元気良く盛り上がっている。 「ねぇ。ビール飲んでい~い?」Charleyがおねだりをする。ここに来て何たる我が儘。脳天気にも程がある。「なんでぇー。」と尋ねれば。「だって落ち着かないんだもん。小さいのでいいから。」と言う。ははあ、どうやら重大事は靴擦れからそちらに移ったらしい。彼女にしてみれば未だかつてない大舞台。高まる緊張を和らげたいということか。ならば大目に見ようと買いに行かせた。 その間にHEAVENの屋台にS戸さんを見つけて挨拶に行く。まるっと1年ぶりの再会だ。「ここのところなかなか動きが取れなくて・・・。」と僕がご無沙汰の言い訳をすると、「新婚さんだからねぇ。」とフォローしてくれた。その側には、以前競演していただいたCollective Againのメンバーご夫妻が仲良くくつろいでいて「頑張ってねー。」と激励してくれた・・・。 テント脇に戻ったところで突然年配の男性に声を掛けられる。「次はあんた達がやるのかい?」どうやら周辺のステージが次々に終わって、観客が勾当台公園に集まり始めたのだ。これからもっともっと押し寄せてくるはず。次第に緊張が高まる・・・。 そのうちに件のジャグバンドの演奏が終了して、遂に僕たちの出番となった。既に夜の帳は下り、目映い照明が会場を照らしている。僕たちは機材を運びセッティングを始めた。先のバンドが早めに終わったお陰で、随分と余裕があった。6時30分のスタート10分前にはスタンバイOKとなり、スタッフに声を掛けてみたものの、定刻まで待つように指示される。目の前には、数百人から千人にも上る観客が詰めかけて、一斉に注目している。 その時「早くやれー!」と会場に怒号がこだました。空気が一瞬凍り付き、思わずたじろぐ僕。昨年までは客席と地続きのフラットなステージ。奥行きが見えない為にそれほどの圧迫感はなかったが、今回は40センチ程の高さに設えてある。僅かの違いなのに後列奥まで見渡せることで緊張感が数倍高まった。背後の石垣の上まで含めると360度にひしめく観客。その言いようのないプレッシャーが重苦しい。 そこに、スタッフのアナウンス。我々の紹介が始まった。そして地鳴りのような拍手が起こり、いよいよスタートとなった。オープニングはレイ・チャールズの“Hallelujah, I Just Love Her So”。G海老名に目をやると、口を動かして確かにカウントしているようだが、声が聞こえない。すかさずギターが鳴ったところに、ハープが出遅れてしまった。『のっけからやってしまった!』なんとか帳尻を合わせると、今度は両手を挙げて客席に手拍子を求める。有り難いことに観客は一斉に付いて来てくれた。『良し!』気を落ち着けて唄に入る。テンポも悪くない。間奏も無難に収まった。そして2番のBメロからエンディングへ。最後の歌詞が怪しくなったところで譜面台に目を落とすと、暗がりで見えない。『しまった!ライトが必要だった!』ヒヤリとしたものの、記憶を辿ってなんとか乗り切った。 次はCharlyの“Someone Is Praying For Me”。イントロが終わってCharlyの唄が入る。しかしバックに比べて音量が足りない。『ミキサー、もっと上げてくれ!』と心の中で叫ぶばかり。2番で僕のコーラスが入り、BメロでG海老名が絡んで3人になると、どうにかバランスが取れてきた様子。山場にあたるキメのフレーズ、僕と2人のロングトーンはなんとか乗り切った。そこから徐々にゆっくりとエンディング。後半は少々走り気味だった気もするが、それでも無難に纏まった。 3曲目は僕の“Sweet Inspiration”。この辺りで大分落ち着いて、客席の様子も見渡せた。そして中盤の聴かせ所Charlyの“People Get Redy”。ゆっくりとした印象的なイントロが終わりボーカルが入ると、水を打ったように客席が静まった。『よし!もらった!』と思う間もなく、突然ギターの伴奏が消える。何事が起こったのか分からない。リズム隊が必死で支える中、ボーカルは辛抱強く歌い続けている。そしてようやく2番からギターが復帰した。危機は去り、僕は安堵してハープのソロを奏でた。 後で聞いた話だが、その時G海老名の指からピックが外れて、パニックになってしまったのだそうだ。新潟のジャズフェスで弦を切って以来の大事件。たのんまっせ~!Yooちゃん!その後、感極まったボーカルとバックの圧巻の盛り上がりの後、静かなエンディングで終わった。客席からはやんやの拍手喝采、掛け声まで飛んできた。「いいぞー!チャーリー!」ん?でもよく考えるとあれはぷかぷかのマスターだったかも・・・。 続いてCharlyのバラード2曲目は“Ring Them Bells”。自信をつけた彼女の歌声は、公園の隅々まで染み渡っていく。曲のイメージと相まって辺りは更に厳粛な空気に包まれる。サビに入ると3人のコーラスが重厚感を高め、遂に会場が一体になった。少し大げさかも知れないけれど、その瞬間を感じたのは僕だけではなかったと思う・・・。 それから先、ステージ・セットの終盤は、毎度のごとく賑やかに進み“Allright,Okay,You Win”、“Take Me To The River”をこなした後『ヘイヘイブギ』でつつがなく締めることが出来た。“Allright・・・”のソロ回しのメンバー紹介では、それぞれに暖かい盛大な拍手をいただいた。そして初披露の“Take Me ・・・”は案の定走ったが、思ったよりも格好良く仕上がった。最後の『ヘイヘイブギ』は、言わずもがな。バンド始まって以来の「ヘーイ!ヘイ!」の大合唱が巻き起こった。ステージと客席のコール・アンド・レスポンス。僕の掛け声に、手を振り上げて声を枯らす観客達。右からも、左からも、中央からも、大きな波になって押し寄せる。正に究極のクライマックスとなった。 「ありがとうございました~!」僕たちは、ステージの上で深々と頭を下げながら、大きな感動に浸っていた。スタッフのアナウンスが終了を告げ、再び静けさが訪れた。撤収する僕たちに、応援してくれたぷかぷかのメンバー達が駆け寄ってきて、「いやぁ~、良かったぁ!チャーリーなんか前よりもっと上手だったぞー!」と絶讃してくれた・・・。 機材を車に積み込んで帰り際、「すんごい気持ちよかったぁ~。」とCharly。どうやら靴擦れと大緊張の元は取ったらしい・・・。正に夢のような舞台だった。会場にお出でいただいたお客様、実行委員会の皆様、ボランティア・スタッフの皆様、HEAVENのスタッフの皆様、ジャズフェスを盛り立ていただいた仙台の皆様、僕たち同様に各々のステージで精一杯演奏した皆様、そして、今日のステージを成功させてくれたメンバー、ストーブY成くん、BB桜田くん、Yooちゃん、Chariy本当にありがとうございました・・・。・・・そういえば演奏の後、ボンゴを担いで撤収する僕のところに、凛とした品の良いおばあさんが歩み寄って来て、「私会津なの、本当に素敵だったわぁ。」と褒めてくれた。僕は同じ傷みを共有する県民の心をひしひしと感じて、固い握手を交わした。 ジャズフェスは3.11の震災からの復興もテーマに掲げている。そして僕たちも、常々音楽を通して何かお役立ちたいと思っていた。それならば、僕たちのこれまでの立ち位置、そして今日の選曲、演奏はどうだったのだろう。寂しさや傷みを癒したり、怒りを納め心を和ませたり、明日に向かって励ましたり応援したり出来たのだろうか。仙台の人々、更には被災した宮城、岩手、福島の人々の思いと結びつくことが出来たのだろうか。 十数年前、人生につまずきそうになって、遅れてきた青春のあだ花のような乱痴気騒ぎの果てに見つけ出した宝物、DEEP BLUE。ひたすら走り続けることで辛うじて自分らしさを保ってきた。そして50歳を過ぎた今、更にそれをどう磨いて、どう繋いでいけば良いのか。考え処なのかも知れない。この大舞台に立った機会に、改めて気持ちを引き締めよう。そしてこれから1年でも長く続けて、1人でも多くの人々に演奏を届けよう・・・。 ・・・夜の東北道を郡山に向けて飛ばす車中、心地よい充実感に満たされながらつくづく思った。1年巡ってまた夏が終わっ行く・・・。Photo by Inotch &Stove