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パトリック・チャンが語る羽生、高橋
来季の復帰に向けて充電中の元世界王者


スポーツナビ2014年10月17日 10:45

休養中でも圧巻の演技

 10月4日に行われたフィギュアスケートのジャパンオープンで、ひとり別次元の演技を見せたのがパトリック・チャン(カナダ)だった。冒頭の4回転トウループ+トリプルトウループ、トリプルアクセルを着氷させると、その後も次々にジャンプを決めていく。後半のトリプルフリップこそ、やや乱れたものの、演技が終了した途端、ガッツポーズを見せた。得点は178.17というハイスコア。2位のハビエル・フェルナンデス(スペイン)に23点近くの差をつける圧倒的な力を示した。

 もちろん彼の実力を考えたら、さほど目を見張る点数ではないのかもしれない。フリースケーティング(FS)の自己ベストより18点も低いし、昨季の序盤も同等の得点を記録している。驚くべきなのは、チャンが今季休養を宣言していることだ。3月の世界選手権を欠場したため、実戦は2月のソチ五輪以来となる。プレッシャーのかからない舞台ということは考慮に入れる必要はあるだろうが、グランプリ(GP)シリーズに出場する選手を軽々と上回るそのスキルやオーラにあらためてすごみを感じた。


パトリック・チャンが今季休養の理由やライバルの高橋、羽生について語った

「楽しく滑ることを忘れてしまっていた」

 ジャパンオープンの前日、短い時間ながらそのチャンに話を聞く機会に恵まれた。忙しいスケジュールにもかかわらず、こちらの質問に笑顔で答えてくれる。まず、休養を決めた理由について。

「自分の時間がほしかったんだ。ひと息つきたかったし、競技会の連続で、すべての期限に自分のコンディションを合わせなければいけなかった。ソチ五輪があった昨季は、普段よりシーズンが長かった。それが世界選手権を欠場した理由の1つでもあったんだ。特にここ5、6年は止まることなく進み続けなければならなかったので、自宅に戻って何もしないでゆっくり過ごす時間さえなかったよ。テレビをただ見ているような退屈なことですら、僕にとってはぜいたくなことだった(笑)。でも、本当にそういう時間がほしいと思っていたんだ」

 2006-07シーズンにシニアデビューして以来、チャンが本格的な休養に入るのは初のこと。10年には地元カナダで開催されたバンクーバー五輪に出場、10-11シーズン以降は世界選手権3連覇、GPファイナル2連覇など世界のトップを走り続けてきた。それは裏を返せば常にプレッシャーと戦っていたことになる。やはり相当な疲労があったようで、いつしかスケートを滑る楽しさを忘れていた。しかし、現在はそうした重圧と無縁の生活を送っており、新たなモチベーションも生まれてきているという。

「これまでは厳しい戦いがあって、ジャンプをどう跳ぶか、大会で優勝するといったことに集中していた。ただそれを考えるあまり、楽しく滑ることを忘れてしまっていたんだ。今は、少しずつその楽しさを取り戻している。プレッシャーもないし、朝起きて『今日は滑りたくないな』と口にするのも自由。でも、実際のところは、ジムやリンクに行きたいというモチベーションを持ち続けていることに気づいたんだ。そういう気持ちになれるのは、スケートが大好きだということだよね」


競技会に向けて休みなく競技を続ける中で滑る楽しさを忘れてしまっていたという

銀メダルに終わるも「ソチでは成長が感じられた」

 金メダルの本命として臨んだソチ五輪は羽生結弦(ANA)に続く2位。FSで逆転のチャンスがあったにもかかわらず、4回転トゥーループをはじめ多くのジャンプでミスを犯し、羽生を捕らえ切れなかった。バンクーバー五輪以降、圧倒的な成績を残してきた世界王者のチャンにとって、銀メダルという結果は納得いくものだったとはとても思えなかったが、本人はどう感じているのだろうか。

「満足しているよ。五輪のタイトルを持てることは幸せだし、少し驚きでもある。『Wow! 五輪のメダリストだなんて最高だ!』ってね(笑)。バンクーバー五輪でのことを考えれば、ソチでは成長を感じられたし、素晴らしいことだと思っているよ」

 こちらの予想に反して実にあっけらかんとした答えが返ってきた。もちろんまったく後悔がなかったと言えばうそになるだろうが、現在はほとんど意識することはないという。
「当然、大会直後は『優勝できたら良かったな』と思うこともあった。でもあれから時間がずいぶん過ぎて、今はどれだけ金メダルに近かったかとか、そういうことは気にならないし、満足感すらあるんだ。五輪を経験したことで得たチャンスや、将来のプランもあるし、ラッキーなことにショーもできる。この成功で得たスケート以外の楽しみにも恵まれているのさ」


ソチ五輪銀メダルという結果には満足している【写真:ロイター/アフロ】

「もし僕がユヅルの立場だったら耐えられない」

 ジャパンオープンから10日後の10月14日。長年に渡り、ライバルとして競り合ってきた高橋大輔が現役引退を表明した。チャンと高橋は世界の舞台で何度も顔を合わせ、頂点を争ってきた。惜しまれつつ、競技生活から退いたこの盟友の実力を、チャンはこう評価する。

「これまでお互い競い合ってきたけど、ダイスケとは仲の良い友達だよ。彼は素晴らしい才能の持ち主だし、彼のスケーティングが持つ化学反応やエネルギーは随一だと思う。ジャンプもすごい」

 今後その高橋に代わり、日本のみならず世界の男子フィギュアをリードしていくのがソチ五輪金メダリストの羽生だ。昨季、チャンはGPシリーズの2試合で羽生に連勝したものの、ファイナルと五輪では逆に連敗を喫した。一方が世界歴代最高得点を記録すれば、もう一方がそれに負けじとさらなるスコアをたたき出す。チャンは新たなライバルをどう見ているのか。

「ユヅルは若いし、まだキャリアを始めたばかり。僕が彼の年齢(19歳)のころはバンクーバー五輪に出場していた。ユヅルは怖いもの知らずなのか重圧を感じていないように見える。いや、日本ではプレッシャーがすごいのかな。もし僕が彼の立場だったら耐えられないと思う」

 今季を休養に充てるチャンは、いち観戦者として羽生の姿を追っていくようだ。

「五輪と世界選手権という2つの最高峰の大会で優勝して、これから彼がどうプレッシャーと付き合うかに注目している。彼は若くしてあっという間にトップに立った。今季のスケーティングが楽しみだよ。彼と競わず、ただその様子を見届けられるというのはいいことだね」

 そう笑顔を見せるチャンが、競技生活に戻ってくるのは来季。復帰すれば、再び羽生の障壁となるのは間違いないだろう。

(取材・文 大橋護良/スポーツナビ)


ライバルとして競い合った羽生(左)の姿を、今季は観戦者として見続ける【写真:ロイター/アフロ】






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