忘れられない景色がある。5年以上前のことだ。

絶景を見た訳でもなく、ただの日常の一コマである。

多くの人にもその様な忘れられない「ただの景色」があるのだろうか?こんな事を言うと確実に変なヤツだと思われるので、誰にも聞いたことはないが…


その日は高校のテスト週間であり、電車に揺られ家の最寄駅に着いたのはまだ昼前だった。普段と変わったことと言えば、母が不在で祖母が駅まで車で迎えにきてくれたことだ。青空に飛行機雲が3つ交差していた。その時、この光景を生涯忘れないだろうと確信したのを鮮明に覚えてる。確かに珍しい光景ではあるかもしれないが、言うてもただの雲である。ただ、私は家に着くなり2階に駆け上がり、その雲を写真に収めた。今でもあの日の感情まで鮮明に思い出せるほど、今でも瞼の裏に焼きついている。


何故だろうか?ひょっとしたら、日常を自分の内に保存したかったのかもしれない。誰しも非日常的な経験は脳に焼き付く一方で、何気ない日常を想起するのは何かのきっかけが必要である。あの時、私は日常に付箋を貼ったのだ。あの飛行機雲から、当時の生活、悩み、楽しみ、色んなものが溢れてくる。あれから人間関係も、周りの環境も、自分自身も変わった。それでも私は確かに、あの時から地続きの今を生きている。当たり前のことだが、その事実が私に今日も勇気をくれる。


ああ、明日も早いよ。流石にそろそろ寝ようか。