「登場人物」と言う物語 21

 

1童貞と上陸 2買春と買夏 3樹上と巻物📜4巫女と禁欲

5田舎と散逸6純粋と培養7津波とベルギー8不敬罪と星

9安倍と麻生10公務員と父11一浪一流一鮪

12選民と思想13アルバイトとあるバイト

14普通の社会人とは 15童貞喪失のヒエラルキー

16大阪の人はずる賢い東京の人は嫌いや

17鋼の熱処理 18華麗なる業界 19お客様の預者

20 就職前の経済 21 

 

この物語はノンフィクションです。

 

5月から本格的に研修に入った。

工場は茨木と言うところ。ここは、小さな工場が多い。でも、新幹線の🚅基地もある。ここから先は、工場の事、煩雑な内容を避けるため、登場人物主体の内容で済ませたい。これは、トマト🍅の映画エッセイで僕が開発した手法だ。

 

○工場

改めて説明すると、工場には熱処理センターと名前が付いている。場所は茨木。何故茨城の名前が付いているのか不思議だが、大きな街だ。イバラキと読む。イバラキにはJRと阪急が大阪から来ている。通常は、阪急しか利用しない。会社の本社は阪急茨木駅から阪急梅田駅で一本、梅田から寮へは、阪急宝塚線で二本これが、通常のルートだ。でも、多分寮に住んでいる人にとっては、わざわざ梅田まで出てから、宝塚線に北上すると言うのは大変だろう。何しろ、工場勤務なのに、作業着なのに、大阪随一のパリリと高級な通勤路線の電車に乗るのは結構苦痛だ。それで、寮にいる人は大概、車を買って、自動車通勤していた。何せ、自動車通勤なら、中央環状線一本でダイレクト通勤。こうして地図を見直して考えると、大阪って結構狭いのである。しかも、僕がここを離れた後は、ダイレクトモノレールまで出来たのだ。環状線て山手線以下の直径を感じる。

 

○魚田さん

魚田さん(58)は、ここを通い出した当初よく一緒に通勤した人だ。熱処理という仕事は、何せ汗をかいた。工場にはエアコンなんか無いし、(研修は5月から10月と、ほぼ夏だった)熱処理と言う名前だけあって、熱処理を行う為の真空炉が何台もあった。こうゆう炉というのは、それ自体が動いている間は大して熱く無いのだ。ところが、いざ品物が炉から出てくると、たまらない。物によっては800度近い物もあって、品物が、赤く鈍く透き通っているのだ。こんな鉄を、器具で掴み扇風機の前に置くんだからたまらない。汗びっしょりで、1日が終わると、これからバスや電車なんて乗る気分にはなれない。

でも、この工場には、お風呂があって、しっかりと汚れを落とせた。それで、この魚田さんと風呂に入り、その後なんと魚田さんは、スーツを着て、社章まで着けて工場を出るのだ。その姿を見る限り、オフィスで働いている人みたいだ。そう、この訳の分からないスーツコンプレックスにその後、僕は何度も遭遇する事になる。この会社は中途半端な、オフィス型、現場型商社なのだ。

魚田さんは、決して悪い人では無かった。でも、いつのまにか一緒に通わなくなった。後ろめたかったが。

 

○新井さん(29)

この登場人物の順番を、役職の順番で決めるのは嫌だった。だから、主観的に自分に近づいて来た順番で書いている。新井さんは、人のいい九州長崎の人であった。高校で重量挙げを🏋️‍♂️やっていたそうで、炉から出て来た金型を持ち上げる事に生きがいを感じていた。体は逞ましく、しかし顔は(ちばてつや)の漫画に出てくる人みたいだ。多分一番最初に、トンペイ焼きを食べに行かせてくれたのは、新井さんではないか?

この人は独身だった。大阪でいつも思っていたのは、大阪は九州の人が多い事だ。大阪に溶け込んだ人は分からないが、九州丸出しの人も多かった。新井さんが正にそれだった。この人は、大変機嫌のいい人だったが、内心、世の中を怒っていた。本当は、怖い人だったのかもしれない。

人間は、特に男はみんな何かしらに怒っているものだ。いい人ほど、それを隠せない。悪い奴ほど変貌自在だ。

 

○紅葉さん(42)

新井さんと同じく独身で九州出身の人。ただし、この人の年齢は、かなり上だった。この会社では、役職の他に資格の様な物がつく。主事とか、副参事と言う奴だ。「長くいれば貰える奴だ。」と人は言うが、やはり長くいる事は偉い。紅葉さんも、副参事と言う役職が付いていた。身長が高くオデコが出っ張り、正直言ってフランケンシュタインに似ていた。巨人症でもあったのではないか?

 

「先端巨大症(せんたんきょだいしょう、acromegaly)は、下垂体前葉成長ホルモン分泌腺細胞がその機能を保ったまま腫瘍化し(=機能性腺腫)、成長ホルモンが過剰に産生され、手足や内臓、の一部分が肥大する病気。別名、末端肥大症もしくはアクロメガリー。また、「巨人症と一般に称される状態はこの病気であることが多い。」Wiki

 

ただ、この人の場合、馬場さんというより、フランケンシュタインだった。この人は無口で人と争わない人。何の冗談か分からないが、「人間荘」というアパートに住んでいた。ある日、先輩方に誘われて、酒を飲みに連れて行くと言われ、行くと、紅葉さんがいる。全く喋らないで誘われている人がいる理由は決まっている、とこの時学んだ。この支払いは、彼が全てやったのだ。一晩で10数万が飛んで行ったんじゃあなかろうか?こういうのを「タカリと言う」のもこの時学んだ。何度こうゆう事があったかわからない。みんな、後ろめたさはあるのだろう。でも、独身で年齢も行っていて、人に奢れるなんて余裕があるのは、紅葉さんしか居なかった。

僕は流石に後ろめたさを覚え、払おうとすると、みんなから怒られた。「それじゃあ先輩の立場がない」と言う。本音と建て前、日本でサラリーマンになって初めての洗礼だった。散々酔っ払って、目が醒めると、紅葉さんのアパートに僕1人居た。「紅葉さん、ご馳走さまでした」と言うと、紅葉さんは「ポ」と一言だけ呟く。成る程ここは「人間荘」だ。罪を犯し目を醒ますアパートだ。新井さんは、この飲み会には来ていなかった。彼が何に怒っているのか、その時、分かった。

紅葉さん、今もう70過ぎてるかと思うが元気かなあ。とそう言う風にみんなに思い出される人だ。紅葉さんは🍁

 

続く。