救急車のなかでの意識はハッキリと
していて、どの病院も受け入れてくれないのがわかった。
どこも拒否しているのだ。あらゆる場所が溶けて、
こんな患者が、夜現れたら誰でもドアに鍵をかける。
でも不思議と、閉所恐怖症の私が、絶対拒否の狭い救急車内、
長時間走り周っても、乗ってられるのは皮肉だ。
消防隊員の人は、あちこちに電話をしては断わられている。
この哀れな患者は、行くところが、あるのだろうか?
救急車の隊長の会話。
なんでこんなに長い間放っておいたの。
彼は不思議でならないようだ。
それは私に話しかけているようだが、
母に話しかけているのであった。
てっきりいないと思っていた母は
実は私に見えない救急車の私の死角に潜み、
ほとんど一言も口を開かず、その日の最後に、
辿り着いた最後の病院で、どこかへ消えてしまった。
私の見た限り、母は自分にふさわしく無い世界に連れて
行かれると、どこかたのしげで、でも他人のようで、
人知れず消えている。