思い出したら嬉しくなる記憶を忘れているという
ことがある。
(今年は自分の記憶力を
最も憎んだ年になってしまった)
友人の呟きをきっかけにして
馬鹿で素敵な過去の姿を、ウインドウの奥に
置かれた古テレビ流れる映画の中に見つけ
ガラスに顔をつけて眺めた。
未練を胸いっぱいにして
大学を後にしてから二年後か、
過去担当だった教授への謝恩会に呼ばれ、
二人で行くと、
そこには、労働から隔離された、
若者(といっても26ー36)が華やかな
会場で、華やかなな衣服に身を包んだ教授を
囲っている。
3つ上フリーターの友人が幹事をし
音頭を取っていた。
一件、まとまった愛に包まれた集団に見えるが
華やかなのは実は教授だけだ。
囲んでいるのは、門下の生徒。
男子生徒は、教授を祝っているものの
それぞれが高い学識をもちながら
ろくな仕事につけていない。
数百万の学費を借金している者もいて
パーティーの中で、汚い服装がめだつ。
女生徒の方が圧倒的に多い、
女性、だからか、服装はある程度見える。
男子生徒より職ももっている者もいるが、やはり卒業してもいまだ職のないものもいる。
僕らは当時、日々の労働に打ちひしがれ
同時にそれぞれが女性との別れを経験していた。
スーツもボロボロ、髪も乱れ、日々の生活に敗れていた。
皆が教授の勇退を祝う中、
僕らはたまらなくなって
表へ出た、そして東上線に乗ったのだ。
僕と彼は場違いだった。
それに気づいて、いるだけましなのかもしれないが
彼に連れられて行き着いたのが、
東上線のある駅にある
ホームページももたない
街外れのキャバクラだった。
そして
それが僕の拙い夜の街デビューとなった。
僕らは
暗い街の派手なだけでデザインに品のない
汚らしい電飾の灯りにたどり着いて腰を落としたのだ。
文化の中心(大学)から流れ出す奔流に
はじき出されたところにいたのは
物騒な顔つきといかがわしい語り口の
客引きの兄ちゃん
彼の顔は思い出せるのに
女の子の顔は一切思い出せない。
キャバクラで得るものなど
たかが知れているが
その日、それが夜、道に
小さな小さな火を垂らして
僕は
その上を辿って帰り、なんとか明日の仕事を
迎えることができた。
いったいなぜ、忘れていたのだろう。
