どもども…週末昔ばなしやよ〜〜口笛

今回は、いいお話照れ

石川県の話です。
昔、金沢のはずれにある 小坂(こさか)というところに、伝燈寺(でんとうじ)という寺があり、そこには 活道(かつどう)という和尚が住んでおった。

この寺の鎮守堂の入り口には、白い木彫りの2匹の狛犬(こまいぬ)が座っており、鎮守堂を守っておった。

この狛犬ははるか昔、夕日寺(ゆうひでら)の観音像を掘った折、その余り木で作られたと言われておる。

かつて、土地の者を苦しめたイノシシを噛み殺したという言い伝えが残っておった。

その後、夕日寺が廃れた後、この伝燈寺へ移されたという話じゃった。
ある吹雪の日、和尚は外から誰か呼びかけているのに気づいた。

「開けて下され‼︎ 和尚さん…和尚さん、おられるかっ⁉︎」

和尚が戸を開けると、そこに1人の老人が立っておった。

「おいっ坊…しっかりするんじゃ…」

よく見るとその老人は、傷ついた小さな子どもを抱えておった。
「どうした?」

和尚は、急いで老人と子どもを寺の中へ入れた。

老人は、事の次第を訴えた。

「和尚さん、助けて下され…ゆうべワシの孫が、オオカミに食われた。この子も、もうすぐのところで殺されるところじゃった…」

和尚は、外の様子を窺うと戸を閉め、お湯を沸かしてから子どもを寝かせた。

老人は尚も訴え続けた。

「この傷を見て下され…こんな目に遭うと、必ず殺されるという話じゃ。どうか助けて下され…なあっ⁉︎」

和尚は、心の中で思った。

…とうとうこの近くまでやって来たか…

この年、山は不作で、オオカミたちは麓までやって来ていた。

そうして、これと狙いを定めると、戸板であれ土塀であれ、破り壊して入って来るという話じゃった。
そして和尚は、老人に言った。

「ここは寺じゃ。槍1本、鉄砲1丁あるでなし…守ってやろうにものう…」

すると、孫が老人に呼びかけた。

「おじいちゃん…おじいちゃん…」
「うん…和尚さま、狛犬さまが守ってはくれますまいか?」

和尚は驚いて、聞き返した。

「ご老人、あれは言い伝えというものじゃ…ご老人…あの話を信じて、ここまで…?」
「この子が、あの狛犬さまに守ってもらいたいと…」

和尚は、この純粋な心を持つ子どもを見て、思った。

…ただの言い伝えを信じて、すがって来る子どもこそ、仏よのう…そうじゃ、ワシが一緒に食われてやろう…

和尚は老人を帰すと、子どもを抱えて、死ぬ覚悟で鎮守堂に立てこもった。

そうして香を焚き、座禅を組んだ。

和尚は、子どもに尋ねた。

「怖いか?」
「ううん…狛犬さまがついているもの」
「うん…」
和尚は、寝かせた子どもに、自分の袈裟を掛けた。

その時、外で何か叫び声が響いた。

和尚は訝りながら、格子戸から外の様子を見て、驚いた。

「あ…っ⁉︎」

そこにはなんと、おびただしい数のオオカミたちが迫って来ておった。

オオカミたちは、血の匂いを嗅ぐと、どこまでも追って来ると言われておった。

今、傷ついた子どもの血の匂いを嗅いで、鎮守堂の周りをぐるりと取り巻いておった。

和尚は思わず、子どもを守るように抱きかかえた。
オオカミは、今にも飛びかからんばかりに、じっと構えておる。

そして、先頭のオオカミの叫び声を合図に、今まで静かに様子を窺っていたオオカミの群れは、百雷の轟きにも似た凄まじい唸り声をあげて、鎮守堂へ襲いかかった。

体当たりで、戸や壁をぶち破ろうとして、その破片がそこらに飛び散った。

その隙間から、オオカミの鋭い口が見えた。

和尚は覚悟を決めて、自分の袈裟を子どもに着せると、こう言い聞かせた。

「これより、ワシの言う通りにお経を唱えるのじゃ…よいか?」
「はい」
外では、尚もオオカミたちの猛攻撃…今にも壁が壊されそうな勢いじゃった。

そんな中で和尚と子どもは、一心不乱にお経を唱え続けた。

「南無阿弥陀仏…」
「南無阿弥陀仏…」

遂にオオカミの1匹が、壁を破って顔を覗かせた…その時、思わず子どもが叫んだ。

「あっ…狛犬さまぁ〜〜っ‼︎
するとどういう訳か、外で何やら争うような物音がした。

しかし、和尚と子どもはお経を唱えるのに必死で、そんな外の様子には気づかず、ただ一心にお経を唱え続けておった。
やがて、山にほんのりと朝の明るさが差し始めた。

「南無阿弥陀仏…」
「南無阿弥陀仏…」

その頃になるともう、オオカミたちの叫び声もすっかり消えておった。

和尚が格子戸から外を見ると、そこにはなんと、不意打ちを食らったオオカミどもの死体が粒々と横たわっておった。

その様子を老人はじめ、村人たちも茫然と見ている。
子どもは、鎮守堂から老人の姿を見つけると、一目散に老人に向かって行った。

「じっちゃ〜〜‼︎」
「坊〜〜っ‼︎」

じっちゃは、駆け寄る孫をしっかりと抱きしめた。

そして、和尚がふと狛犬のほうに視線をやると、その狛犬の口は、真っ赤な血で染まっておった。
「狛犬が救ってくれたのか…」
「やっぱり、ただの言い伝えではなかったのですなぁ…」
「不思議な事もあるものじゃ…」

この狛犬は、今も金沢市 牧町(まきまち)の 三河(みかわ)神社に祀ってあるという事です。
(語り 市原悦子)

バイバイ照れ音符