一般的にロシア人は、いわゆる「北方領土」(国後、択捉、歯舞、色丹の諸島)について、これは第二次世界大戦の結果、正当な権利として得た自国領土であると認識していると理解しています。

だから、仮にプーチン大統領が日本国に対して、この「北方領土」を返還するなどと言ったら、間違いなく、その政治生命にもかかわる事態となるでしょう。

暴動やクーデターが起こっても不思議ありません。

けれども忌憚なく言わせてもらえば

国際社会は、そうしたロシアの「北方領土」領有権についての主張については、ハッキリと否定的です、

例えばEU諸国はロシアに対して「北方領土」の日本への返還を呼びかけています。

孫引きなので恐縮ですが
https://blog.goo.ne.jp/princeofwales1941/e/f1aab3b739be34e2a4166d8885a329b7

ロシア通信によると、ウラジーミル・チジョフ露外務次官は18日、欧州連合(EU)の欧州議会が今月7日、北方領土の返還をロシアに促す決議を採択したことについて、「ばかげている。欧州議会は別の惑星に住んでいるようだ」と強く反発した。欧州議会の決議は、極東の安全保障強化を東アジア諸国に呼びかけたもので、北方領土については「第2次大戦末期にソ連によって占領された」とし、日本への返還を求めている。北方領土問題をめぐり、主要国で日本の主張を支持しているのは米国だったが、欧州議会が日本支持の決議を採択したのは初めてだった。

「日本政府が南クリル諸島の扱いについて立場を変更する可能性は低い。それに加え、EUと米国の担当者は米国国防相のドナルド=ラムズフェルドの面前でロシアは論争中の四島全てを日本に返還すべきと忠告した(この一文はロシア語版では、「EUと米国は米国国防相のドナルド=ラムズフェルドと欧州議会を通して、ロシアは論争中の四島全てを日本に返還すべきと忠告した」となっている)。プーチンの訪日は今年始めに予定されていたが中止された。11月に予定されているプーチン訪日は両者に何ら利益をもたらさないのではないかという話が出ている。


また中華人民共和国もロシアの北方領土領有の主張については、これを支持せず、例えば中国製の世界地図(例えば新編実用世界地図冊/中国地図出版社発行の地図など)では北方領土は日本領土とされています。

https://hbol.jp/33907?display=b


中にはロシアの北方領土についての主張を支持する国家もあるのかもしれませんけど、例えば台湾(中華民国)を国家承認する少数の国があるからといって、台湾が国際社会から国家として認められているとは言えないのと同様、ロシアの北方領土領有に関する主張も一般的には国際社会から認められているとは言えないでしょう。

それぞれの国家の政治的な思惑はあるとしても、一体、なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

理由は簡単で、ロシアの北方領土領有に関する主張には国際法による裏付けがないからです。

北方領土領有の主張の根拠として、ロシア側はヤルタ秘密協定を挙げますが、当事者ではない日本国の同意を得ない「秘密協定」それ自体には(日本国に対する)拘束力がありません。

次に日本国は確かにサンフランシスコ平和条約において「千島列島」を放棄していますが、その「千島列島の範囲は条約の上では明らかになっていません」。


勿論、実際にはいわゆる「南千島」(国後、択捉)がサンフランシスコ平和条約上の「千島列島」に含まれていたのは、当時の日本国政府関係者の答弁を含め、状況証拠から明らかなのですけど

当のサンフランシスコ平和条約の起草国とも言うべきアメリカは、その後1956年9月7日付けの米国政府覚書でこのような見解を述べています。

「米国は、歴史上の事実を注意深く検討した結果、択捉、国後両島は(北海道の一部たる歯舞群島及び色丹島とともに)常に固有の日本領土の一部をなしてきたものであり、かつ正当に日本の主権下にあるものとして認められなければならないものであるとの結論に達した」


出典;高野雄一『国際法からみた北方領土』(岩波ブックレット)P42

つまりサンフランシスコ平和条約の起草国とも言うべきアメリカ自身が、いわゆる「北方領土」は日本国が同条約において放棄した千島列島には含まれないとの「お墨付き」を与えたわけです。

それが歴史的根拠として見たときにどうなのか?

あるいは地理学上どうなのか?

という議論をするのは実際のところ、大した意味はありません。

要は

いわゆる「北方領土」に対するロシアの領有に対する国際社会の支持はほとんどなく、単に日露の係争地としてしか見られていないというのが現実だということです。

更に悪いことに、当のロシア自身が1993年の「東京宣言」において「領土問題」の存在を認めてしまっています。

https://www8.cao.go.jp/hoppo/shiryou/pdf/gaikou46.pdf

2 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、両国関係における困難な過去の遺産は克服されなければならないとの認識に共有し、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題について真剣な交渉を行った。双方は、この問題を歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続し、もって両国間の関係を完全に正常化すべきことに合意する。この関連で、日本国政府及びロシア連邦政府は、ロシア連邦がソ連邦と国家としての継続性を有する同一の国家であり、日本国とソ連邦との間のすべての条約その他の国際約束は日本国とロシア連邦との間で引き続き適用されることを確認する。日本国政府及びロシア連邦政府は、また、これまで両国間の平和条約作業部会において建設的な対話が行われ、その成果の一つとして1992年9月に「日露間領土問題の歴史に関する共同作成資料集」が日露共同で発表されたことを想起する。日本国政府及びロシア連邦政府は、両国間で合意の上策定された枠組みの下で行われてきている前記の諸島に現に居住している住民と日本国の住民との間の相互訪問を一層円滑化することをはじめ、相互理解の増進へ向けた一連の措置を採ることに同意する。



ちなみに、ここでいう「帰属」は「日本への帰属」ではありません。

あくまでも中立的表現となっていますが、これに署名したことはロシア側にとっては失策としか言えないでしょう。

それ以前の日ソ共同宣言では「ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要請にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する」として、国後、択捉にふれなかったのはもとより、あくまでも「引き渡す」という表現に留めていたのに
(ソ連の正当な領土だが、日本国の要請に答えて「譲渡する」と読めるような表現という意味)


この東京宣言では日露両国の間で四島の帰属問題が未解決、つまり日露間に未解決の領土問題が存在することを認めてしまったからです。

この宣言のあとで、例えばロシア側が「北方四島はロシアの主権下にあることを日本側は認めろ」と言ってみたところで、後の祭りです。

我が国としては

でも貴国は東京宣言において両国間の領土問題の存在を認めていますよね?

と指摘すればいいだけの話ですので。

「北方領土」の帰属先については係争中であるというのが国際社会の一般的な認識であり、当のロシアも東京宣言に署名したことで、それを認めてしまっている、というお話です。