1973年12月1日に発売されたアルバム「氷の世界」は、100週以上にわたってアルバム・チャートに留まり、2年後の1975年、LP販売100万枚突破という日本レコード史上初の金字塔を打ち立てます。
このアルバムには、井上陽水の代表的ヒット曲「心もよう」や小椋佳が作詞した「白い一日」など注目曲が収められていますが、レコード盤に針を落とし（←死語！）聞こえてきた1曲目の「あかずの踏切り」には度肝を抜かれました。

「なに、このタイトルとは真逆のポップなメロディー？」

そう、タイトルや歌詞から自分が想像していたのとはまるで違う、明るくシャレオツなメロディーが流れ出し、逆に印象に強く残りました。作曲はアルバム全曲のアレンジを担当した星勝（ほしかつ）、日本のサイケデリック・ロックの草分け的存在と言われた「ザ・モップス」のギター＆ボーカルです。

その後、リリースの順序とは逆になりますが、ライブアルバム「もどり道」を購入し、またまた驚くことになります。「あかずの踏切り」はそこにも収められており、陽水自身の作曲によるバージョンは

「メッチャ暗～い曲やん」（笑）

でも、タイトルや歌詞の世界観にはこちらの方が合ってる気がしましたね。

ただ、どうだろう？　「氷の世界」の1曲目にこちらのバージョンが収められていたら？　「当たり前」すぎてインパクトを感じなかったかもしれません。いい意味で「裏切られた」ことで陽水への興味が増したというか。そういう意味で「星勝さん、やるやん？」と思いました。

「あかずの踏切り」は、1976年発売の「東京ワシントンクラブ」にも収録されました。これは、一部には「陽水が星バージョンを気に入っていなかったから」という説があるようですが、どうなんでしょう。
夢の中を漂っているかのような、幻想的な雰囲気を持つ曲に仕上がっています。

いずれにしても、同一の詞に３つのメロディーが付けられるというのは珍しいですよね。

陽水は歌詞の世界観をずっと模索し続けていたのかもしれません。

個人的には、やはりファーストコンタクトとなった星バージョンが好みで、特に「あかずの踏切～はじまり～帰れない二人」と半音ずつ下がっていくメドレー構成に惹かれました。シングル「心もよう」のB面（←これも死語だ！）になった忌野清志郎との共作「帰れない二人」は、美しいメロディーと優しさに溢れた歌詞に癒されます。

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３つのメロディーを持つ曲～井上陽水②「あかずの踏切り」