桜が咲き乱れるころ、この正門をくぐった。
今年から高校に、通う佐藤恭平。ルックスと運動神経は自分でもいい方だと思ってる。頭は…特別良くはないが。
そんな俺なんだが、今まで女の子を「好き」と思ったことがなかったんだ。
告白された事は何回もあるが、誰も「好き」にはなれなかった。
だが、入学式の日にある女の子を見つけたんだ。その瞬間、俺は彼女が「好き」になっちまった。恋ってこんなに早く始まるもんなんだなって、思ったよ。
その子の名前は佐田晴奈。俺と同じクラスなんだ。
入学式の日、俺は彼女にいきなり告白した。
「付き合ってください。もし、駄目なら友達からでもいいから。」
そしたら彼女は、
「私も好きなんです。友達からじゃなく、付き合いたいです。」
って言ってくれたんだ。
彼女も俺に一目惚れしてくれたらしい。すっげー嬉しくて、それからどうやって家に帰ったか覚えていない。
俺と晴奈が付き合い始めて一週間が経った。今日は待ちに待った初デートの日だ。場所は、晴奈の家だ。俺があらかじめ教えてもらっていた晴奈の家に行くと、彼女は家の前に立っていた。
「悪い、待ったか?」
「全然だよ。じゃあ入ろっか?」
「わかった。じゃあお邪魔します」
晴奈の家は普通の一軒家だ。今日は家族が出掛けていて、いないらしい。
「ここが私の部屋」
……女の子っぽい。ピンク色のカーテンや、熊のぬいぐるみなどが置いてあって、可愛らしい部屋だ。
しばらく雑談していると、晴奈がおもむろにテレビを付けた。テレビにはドラマの再放送が流れている。
「あ、この俳優かっこいいよねー」
この言葉を聞いた瞬間、いきなり俺の心にどす黒い感情が芽生えた。
「…んでだよ」
「え?」
「何でなんだよ!!!」
彼女は一瞬ビクッとし、俺の方を向いた。俺はその仕草までもがイラついた。まだわからないのか。
「何で俺といるときに他の男のこと話すんだよ?お前が好きなのは俺だろ?俺の話だけをしたらいいんだ」
すると彼女は震えながら、
「うん…ごめんね恭平くん」
と言った。
「わかればいいんだよ」
それからは晴奈から話し掛けてくることはあまり無かった。時計を見ると七時半。
「じゃあ俺今日は帰るわ」
「わかった。気をつけてね」
家に着くと、真っ先に晴奈にメールをする。
「今日はありがとう。晴奈、好きだよ」
五分後、返信が来た。
「こちらこそありがとうね。じゃあ、また明日学校で」
…何であいつは俺に「好き」って送ってこないんだ?俺は腸が煮えくり返る思いで風呂に入り眠りについた。
翌日、教室に入ると、晴奈がいた。いや、晴奈と男が喋っていた。
男の名前は斗真敏也。中学生のときサッカー部に所属していたといういけ好かないチャラ男だ。
ムカつく。ムカつくムカつくムカつく。
「晴奈、おはよう。何でそいつと喋ってんの?」
「あっ恭平くん…。おはよ」
「何でかって聞いてんだろ?」
俺が笑いながら問い掛けると、敏也が、
「もしかしてお前らってそういう関係なのか?」
と聞いてきた。
「そういう関係ってなんだよ?」
俺が敏也に言うと、敏也は気まずそうに
「その…付き合ってんのか?」
と、答えた。
…なるほどな。大体わかったぞ。こいつも、晴奈のことが好きなんだ。
だがとりあえず、今は晴奈へのお仕置きが先だ。
「当たり前だろ。じゃあ晴奈、授業サボって屋上でも行こうか」
「えっ…サボるの?」
「ああ。早く行くぞ」
俺たちは呆然としている敏也を置いて、屋上へと歩き出した。
屋上に着くなり、俺は晴奈の頬に平手打ちをした。
「何であいつと喋ってたんだよ?」
「…ごめんなさい恭平くん。でも、ただ普通に話してただけで…!」
普通ってなんなんだ?彼氏がいるのに他の男と平気で喋るのが普通なのか?
――そんな訳ねえだろ。
「…っせーな。俺以外の男子と喋ってんじゃねえよ!昨日も言っただろ?もう忘れたのか?俺の事だけを見てればいいって」
俺は晴奈に問うた。しかし晴奈は、
「それとこれとは話が違うじゃない!ただ単に会話をするだけでもダメなの?それじゃあ私に自由が無くなっちゃうじゃない!せっかく高校に入って新しい友達見つけようとしてたのに、そんな束縛ばかりされちゃあ、私何も出来ないよ…」
これが彼女の考えなのだろうか。俺が言葉に詰まっていると、彼女は、
「もういいよ。私の気持ちを理解してくれないなら、私はもう迷わない」
そして、晴奈は俺が一番恐れていた言葉を吐いた。
「私たち、別れよう」
…え?
「短い間だったけど、ありがとね。さようなら」
彼女は階段への道を歩いていく。俺は、何も話すことが出来なかった。彼女を引き止めることも、追いかける事も出来なかった。ただ、彼女の言葉だけが心の中で何回も、何回も再生される。
「…嘘だろ」
俺は、屋上で一人呟く。何故だ。何故こうなった?何で、あいつは俺から離れていった?
…そうか。あいつは色々な事情があって疲れているんだ。なら、俺があいつを疲れから解放してやらなければならない。
――永遠に、俺の元で。
次の日、学校が終わってクラスのやつらが帰る準備をしているときに、俺は晴奈を呼んだ。
「なあ」
「なに?」
不機嫌そうだ。やはり疲れているんだろう。そうだ。そうなんだ。そうに決まっている。じゃなきゃ俺と別れるなんて、考えられないはずだ。
「今から、屋上に来れるか?少しだけ話がしたいんだ」
「…うん、いいよ」
屋上に着くと、晴奈の方から口を開いた。
「何の話なの?」
俺は晴奈に言う。
「晴奈、お前最近疲れてんだろ?」
「どうしたの急に?」
「無理すんなって。見りゃあわかる。なんたって俺とお前は愛し合ってたんだからな。俺はお前が好き。お前も俺が好き。これは決して変わることはないんだ。そうだろ?」
しかし、晴奈は首を横に振った。
「もう、終わったんだよ。私たちは」
俺は頭の中が真っ白になった。やはり、晴奈は疲れすぎているんだ。なら、したくはなかったが、この方法しか――
「ぐぅっ…」
俺は、晴奈の首を絞めていた。
「かはっ…や…めて、きょう…へいくん…っ」
「仕方ないだろ?お前を永遠に休ませてやるには、この方法しか無いんだから」
美しい。苦痛に歪んだその顔ですらも。
「きれいだよ。晴奈」
「く…はぁっ…」
俺は、絞める力を強めた。彼女が苦しむのも、もう少しの辛抱だ。
その時、彼女は痙攣し始めた。
やがて、彼女は動かなくなった。俺は開いていた彼女の目をそっと閉じ、呟いた。
「愛してる、晴奈」