月下の一群第2集の2曲目は原詩がポール・フォールによる“あの娘”です。

この曲の詩は私のとても好きな詩であるので全文紹介します。

(原文の文語体を読みやすくするため、口語体に直して書きます)


あの娘、娘もとうとう死にました

恋の悩みに死にました


村人は 娘をば 地(つち)のなかへと埋めました

明け方に 地の中へと


村人は 娘をば たった一人で寝かせました

晴れ着着せ たった一人で


村人は 娘をば たった一人で寝かせました

棺の中に たった一人で


村人は 帰ってきました たのしげに

にぎやかに 陽(ひ)とともに


村人は歌いました たのしげに にぎやかに

「どうせ一度は誰も死ぬ


あの娘 娘もとうとう死にました

恋の悩みに死にました」


村人は 畑へと出てゆきました

畑へといつものように・・・


曲はリズミカルな、しかしイ短調によるどこか切迫感のある前奏から

始まり、タッカのリズムによる刻みに乗って合唱が入っていきます。

1段目の

“あの娘、娘もとうとう死にました

恋の悩みに死にました”

で一度基本メロディーが出てきて、そこからはこの旋律が少しづつ

変奏されながらイ短調のまま前半は進行していきます。

ピアノ伴奏で面白いのが最初9から10小節を例に取ると、

(9小節目)左手→イ長調 右手→イ短調

(10小節目)左手→ホ短調 右手→ホ長調

と、長調と短調を組み合わせた伴奏になっていたりする所で、これは

後半の転調への布石とも読み取れますし、また死と生の対比のよう

にも感じられます。


「棺の中に たったひとりで」までで一度合唱パートが区切られたあと、

ピアノの間奏が入りそこでイ短調からイ長調に転調され娘の葬儀が

終わったあとの「村人はかえって来ました」のパートへと移行します。

ここからの後半パートは前半の暗さが嘘のようにまるで鬱状態の

反動として躁状態が現れたかのように、ただそこ抜けに明るく展開

していきます。

トップとセカンドパートが交互に主旋律を担当しながらベースや

バリトンの「ララララー」のパートと共に曲を明るく盛り上げます。

ここでのラララー♪と歌うパートは「フニクリフニクラ」をなんとなく

連想させるメロディーになっています。

この後半の合唱は3連符とタッカのリズムが交錯する面白い掛け合いと

なっており、聴いてても歌っててもなかなか楽しい所です。

ハイなパートが終わった後は村人がいつものように畑へ出る日常へと

もどる詩をこれまた基本メロディーに乗せてイ長調のまま淡々と終わり

ます。


若い娘の死という非日常の悲劇、しかし死者を送る側の生きてる

その悲しみをどこまでも引きずるものではなく、

「どうせ一度はだれも死ぬ」

と言い聞かせ、また自分自身の畑仕事という日常に戻るという無常感、

そして生と死の対比が「月下の一群」シリーズのテーマの一つだと

思いますが、この陰と陽2つの要素をはっきりと感じられるこの2曲目に

私は惹かれてやまないものが有ります。


なんというか、もし死の間際に最後に1曲聴くとしたら、私はこの曲

“あの娘”を大きな候補の一つにしたいと思っています。


3曲目につづく。