月下の一群第1集の4曲目はこの1集の5曲の中でも最も存在感の有る

“海よ(催眠歌)”です。

本当は“催眠歌(海よ)”と表記するのが正しいのですが“海よ”の呼称の

の方がこの合唱曲を語るときには通じやすいと思われますので以下

“海よ”で述べていきます。


月下の一群第1集の5曲有るうちで最も長大なこの曲は恐らく作曲した

南弘明氏も一番力を入れた曲であろうというのはこの曲を聴けば容易に

想像できるかと思います。

海の雄大さと波打つさまを想起させるピアノの6連符の調べにのって

合唱もゆったりと、しかしスケール感たっぷりに進行していきます。


第1パートは変ロ長調で海に対して“お前”と語りかける部分を30小節

に渡ってじっくりと歌い挙げた後、透明感のあるピアノ間奏が奏でられ

「牛乳のような~」の部分から変ト長調に移り色合いの変化を見せます。

ピアノの6連符の伴奏は一度止み、「おまえはいつまでも飽きないか~」

から「きかせておくれ~」の部分の合唱で音楽が一度盛り上がりを見せ

また一度6連符の伴奏で一度収まった後にハ短調に入り、「夜明けに

お前を逃れ」からこの1集の最大のクライマックス、

「太陽は いつも 逃げてしまう」

に到達します。


詩的に面白いのは海に対して2人称として呼びかけていくなかでこの

“太陽はいつも逃げてしまう”はどうしても1人称の言葉に近いものに

思えてしまう点です。

自分の手元に引き止めておきたい大いなる憧れ、しかし手が届くこと

は無い存在としての“太陽”への切実な思いを歌い上げる部分で変ロ

短調の7度の和音を使っています(”太陽は”の1小節だけでもB♭mM7

→D♭7→Cと和音が変わりますが)がこのメジャーセブンの響きも

この月下の一群の中では要所要所でポイント的に使われている

和音です。


音楽はクライマックスの熱を冷ます間を置いたあと、手が届くことのない

太陽への諦念から再び穏やかな旋律へと戻り、ただ海へ淡々と語り

かけながら静かに終えてゆきます。

(部分部分で4分音符で奏でられるピアノの簡素な旋律も秀逸です。)


この曲“海よ”はそれまでの3曲と違い明らかに合唱的にも音楽的にも

濃密で、ここでもう月下の一群の第1集は終えてもいいのではないかと

さえ思わせる1曲ですが、しかし次の5曲目「秋の歌」が残っていると

いう不思議な曲集になっています。


つづく。