月下の一群第1集の3曲目は「人の言うことを信じるな」です。
1・2曲目は純真で天真爛漫な詩と曲ですがこの3曲目は逆に
人間不信の皮肉っぽい価値観の詩になっていて5曲の中では
テーマ的には異質なものです。
乙女よ、恋なんてものはない、有っても男に騙されて世話の焼ける
子供が残されるだけ、だから一人で網を張って一人で生きている
蜘蛛を見ろ、というニヒリズムの詩ですが曲はこの詩に対してトリッキー
かつ畳み掛けるような調子で進行させていきます。
冒頭のピアノのイントロはバダルジェフスカの「乙女の祈り」のパロディに
なっていって、ニヤリとさせられます。
バダルジェフスカの「乙女の祈り」は幸せな結婚を祈る曲でこの曲には
続編として「かなえられた祈り」という曲が有り、結果乙女は幸せになると
いうものですが、この「人の言うこと~」のピアノ伴奏はそれに対する反歌と
してあえてこの素直で可憐な曲を不協和音を織り交ぜたパロディーにして
曲の中に取り込んでいます。
冒頭のゆるやかなアンダンテから激しく和音を連打するアレグロは恋の
幻想を否定し、そして合唱の「人の言うことを信じるな~」のニヒリズム
歌詞へと突入していきます。
中盤の「男は嘘ばっかりを~」の所からはそれまでのト長調からト短調に
転調し一通りの盛り上がりを見せた後ゆったりとベースがソロパートで
「自分が祖母のように老いたと」と一旦落ち着きを見せたのもつかの間
またとどめをさすように恋の幸せを否定し、ト長調の旋律が繰り返されます。
歌詞とは反対に意外と合唱パート全体としては極めて常識的な展開をし、
前曲の「輪踊り」同様、男声合唱らしい力強い終わり型をします。
最後のピアノはまたゆがんだ乙女の祈りの旋律が奏でられ激しく上下に
鳴らされる和音でスパッと打ち切られます。
1集の中でもやや異彩を放つこの曲ですが、月下の一群が一つの主題を
貫いた「組曲」でなく単独曲の集まりである「曲集」で有るというコンセプト
が特にこの第1集では伺えます。
(といいつつなんとなくテーマめいたものは3集まで通してみると有りそう
ですが。それはまた後述します。)