終章:残された光
沙織は知っている。失われたものは戻らないということ、奪われたものは奪い返せないということ。しかし彼女はまた知っている。記憶は消えないが、それを抱えて生きることは可能だということを。
夜になると、沙織は陽菜の写真をテーブルに置き、窓の外の街灯りを見つめる。街はいつものように動き、そこには良いことも悪いことも混在している。沙織はその中で、小さな光を探す。光は時折消えるが、必ず次の朝に再び現れるのだ。
「奪われては、」という言葉は、もはや単なる事件の記憶ではない。それは沙織が歩んだ道の名称となり、彼女の中で静かに響き続ける。失われた春の代わりに、彼女は新しい季節を見つけようとする。その季節は温かいものではないかもしれないが、確かに彼女の一部となる。
終